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RETAIL TREND:ふるさと納税ふるさと納税事業プレイヤーの
未来と参入障壁

ふるさと納税制度が生むビジネスの市場規模は2兆円とも言われています。確定申告の手間を省く「ワンストップ特例制度」が導入された2015年からは寄付金額も爆発的に伸びており、導入前の実に10倍以上となっています(2018年度時点)。

それでも、利用率は納税者の1割程度ということを考えれば、まだまだ市場はブルーオーシャンという見方もあります。そこに目をつけ、ふるさと納税に参入する新規事業者も後を絶ちません。

「ふるさと納税事業」のステークホルダー

一口に「ふるさと納税事業」と言っても、そこには様々な立場のプレイヤーがいます。以下で、ふるさと納税事業の主なステークホルダーを整理して見ていきましょう。中にはいくつかの領域を幅広く受け持つような事業者も存在しており、どの領域でビジネスをするかによって、他の事業者は競合社にも協業社にもなり得ます。ふるさと納税事業は、広いようでいて、意外と狭い世界で成立しているのです。

自治体

各自治体は、ふるさと納税の寄付金額を引き上げるアイデアを常に欲しています。しかしながら、返礼品の企画開発や各種オペレーションを遂行する時間的・人的余裕がほとんどないのが現状です。
寄付金額を引き上げ、オペレーションもまとめて引き受けられる状態を作っておかないと、新規事業者に対して聞く耳を持ってもらうことは難しいと言えるでしょう。

返礼品提供業者

自治体が定価で商品を買い取ってくれることを考えれば、返礼品提供事業者にとって「ふるさと納税」は悪くないビジネスと言えるでしょう。当然、すでにECでの商品販売を行なっている事業者であれば実施までスムーズに漕ぎ着くことができます。
また、そうでない事業者や、そもそも形のある商品を扱っていない事業者であっても、商品開発のアイデア次第であらゆる業種・業態の企業にビジネスをするチャンスがあります。

運営代行業者

自治体側の視点から見ると、ふるさと納税事業の運営はやるべきことが多岐に渡っており、時間と人を割くことができない自治体からそれを受託する運営代行業者がいます。

返礼品収集業者

例えば、もともと土産物事業をバックグラウンドに持つレッドホースは、返礼品の収集を得意としており、佐川急便とタッグを組んで配送までを請け負う事業者です。

納税手続代行業者

エッグやシフトプラスなどは、ふるさと納税専用のシステムを構築し、ワンストップ特例制度に紐づいた証明書の発行など、納税手続の代行までを請け負う事業者です。

このように、代行業者のバックグラウンドによって受け持つ領域や範囲が異なってくるのですが、中には「さとふる」のように、ポータルサイトの運営から納税手続代行まで、全ての工程をワンストップで請け負える事業者も存在します。

ポータルサイト運営事業者

ふるさと納税ポータルのプレイヤーは、すでに先発事業者が多数存在しており、ふるさと納税そのものを事業の中心に据えて新規参入することは難しい領域と言えるでしょう。

逆に言えば、母体の事業にある程度の顧客基盤がある場合や、事業としてすでにプラットフォームを持っている場合は、充分にふるさと納税事業を起ち上げる価値があります。

考えるべきは「タッチポイント」での差別化

新規でポータルサイト事業を起ち上げる場合、上述の通り並み居る先発事業者との差別化を図らなくてはなりません。差別化は以下2つの軸で考えることができます。

①は、シンプルに扱う自治体や返礼品の数を多く広くするのか、少なく深くするのかという軸です。
②は、消費者と事業のタッチポイントが「ふるさと納税メイン」となるのか、それとも、その他の自社サービスなどで別のタッチポイントを作れるのかという軸です。

これをマトリクスにし、主たる先発ポータルサイトの特徴を踏まえて各象限に当てはめていきましょう。

このようにして見ると、後発の新規事業者が、ふるさと納税をメインの事業に据えて自治体数や返礼品で差別化を図るのは非常に困難なことがわかります。

ふるさと納税をメイン事業に据え、かつ自治体や返礼品の数を限定するモデル(左下の象限)は、そもそもビジネスとしてスケールしません。

従って、これから新規で事業を起ち上げるのであれば、いかに自社サービス等を使った独自のタッチポイントで差別化を図り、ユーザーにメリットを提示できるか(左上の象限)が重要になってくるのです。

今後、参入してバリューを出せる見込みがある業種

メイン事業にすでに顧客基盤がある企業であれば、独自のタッチポイントで差別化を図ってユーザーにメリットを提示することが比較的容易と言えます。

例えば、以下のような事業を持っている企業であれば、メイン事業とふるさと納税事業によるシナジーが生める可能性があります。

百貨店(大規模小売業)系/クレジットカード系

これらのメイン事業を持っている企業には、すでに大きな顧客基盤があり、独自のタッチポイントも豊富に揃っています。買い物額に応じたポイントも発行している場合がほとんどです。それらの資産を活かせば、既存顧客に対し、ふるさと納税事業を通じてメリットを提示することはさほど難しくないでしょう。貯まっているポイントを利用して納税できるようにすることも一つの手段です。
また、豊富なコネクションを使って、顧客が普段なかなか購入しないような独自性の高い返礼品(例えばキャンプ用品や布団など)を用意して、高額な寄付を後押しするといったことも比較的スムーズに実現できるのではないでしょうか。

旅行業系

こちらもすでにある程度の規模の顧客基盤を持った業界と言えます。今はますます「モノよりコト消費」「体験重視」の傾向にあるため、オリジナリティの高い旅行商材を開発し、それを「返礼品」に設定することで、「選ばれるポータルサイト」となり得ます。
ふるさと納税の返礼品が、本来各自治体から寄付者に対する「お礼」であることを考えると、各自治体を実際に訪れる機会となる国内旅行が返礼品となり、さらにそこで各自治体の良さを体験できる「旅」という返礼品は、寄付者にとっても意義深さを感じてもらいやすく、CSR的な観点から見てもプラスに働くのではないでしょうか。
また、旅行は多くの消費者にとっての関心ごとでもあるので、開発した「返礼品」をタッチポイントにして新規顧客の獲得にも期待ができます。

不動産業系

不動産売買をする中で、土地の売却益は住民税扱いになります。そのため、土地の売却を高い確度で検討中の顧客には、売却益をふるさと納税扱いにすればかなり得であることを商談の中で伝えることができます。
その際、ふるさと納税の上限金額シミュレーションなどもワンストップで行い、実際に土地を売却した後のサポートまで手厚く行えば、それは顧客にとっては付加価値が非常に高く、メイン事業である不動産の扱いへの後押しにもなるサービスとして機能した状態と言えます。

実際に参入するときに考えておくべき「5つのポイント」

新たにポータルサイトを起ち上げるには、超えなければならないいくつかのハードルと、起ち上げる際に直面する課題があります。新規参入事業者は、それらを常に念頭に置き、ビジョンとフィジビリティを明確にしておかねばなりません。

「100億円100自治体」を目指せるか

ふるさと納税ポータルサイトは、サイトを経由する寄付金額の10%程度が運営手数料となるビジネスモデルが一般的です。そう考えると、事業者の規模にもよりますが、最低でも寄付金額100億円を目標に考えたいところです。それを下回ると、運営が苦しくなるのが目に見えてしまいます。
自治体の数での差別化はしないと言っても、寄付金額100億円を目指すには起ち上げ時に最低でも100自治体がサイトに掲載されている必要があるでしょう。
中には手数料の料率を下げて自治体数を増やそうと考える方もいますが、それは最初から事業の首を締めることになるため、絶対に避けるべきです。

返礼品の企画開発力も必須

新規参入事業者が返礼品の「数」で勝負することは困難ですが、「独自性」で差別化を図ることは可能です。どの自治体も寄付額を集めやすい返礼品のアイデアについては常に模索していますが、ユニークな返礼品の企画開発に十分なリソースを避ける状態ではありません。
逆に言えば、新規参入事業者としては、圧倒的に独自性の高い返礼品の企画開発と、独自のタッチポイントで自治体とユーザー双方にメリットを提示することが必須となってきます。

バックエンドのシステムとオペレーションを構築できるか

ポータルサイトとしてやるべきことは、もちろん返礼品を集めてサイトに掲載するだけではなく、思った以上に多岐に渡ります。
返礼品の在庫管理および発送など、ECサイトの運用と同様のものに加えて、納税者への寄付金受領証明書の発行と言う特殊なオペレーションも発生します。
それらを完璧に遂行するためのシステムを構築するには、現場の人間にそれなりのナレッジが備わっていなくてはすぐに立ち行かなくなるでしょう。

ユーザビリティを担保できるか

ふるさと納税ユーザーにとっては、「年に1度の予算(ふるさと納税上限額)」を、よほどの理由がない限り、わざわざいろんなサイトに分散して使うことはありません。つまり、ユーザーが数あるポータルサイトの中から一つを選ぶのに、ユーザビリティは大きなポイントとなります。
UI自体の分かりやすさ、使いやすさは新規ユーザーの獲得に大きな影響を及ぼしますし、返礼品の配送スピードや融通の利き方はリピーターの獲得を左右するでしょう。

全てのプロセスでスピード感を持てるか

ユーザー側の視点から見ると、ふるさと納税は毎年1年ごとに完結する「イベント」です。そのため、事業者としては、全ての意思決定から各工程の進捗まで、その年ごとにかなりのスピード感を持って進めなくてはなりません。なぜなら、「今年はまだ発展途上だから」と言う理由で使い勝手の悪かったサイトを、情状酌量して来年使うユーザーはいないからです。
もちろん、新規立ち上げの際に何から何まで完璧な状態を作り上げるのは難しい場合もあるでしょう。従って、その年に何をどこまで実現するのか、明確な意思と具体的なKPIを持ち、複数の選択肢の中から具体課題に照らし合わせてその年にまずやるべき最適な方法を選択できる体制を作っておく必要があるのです。