セミナーレポートECからMAまで!買われるECのUXデザイン戦略

2022年1月20日、DX支援・コンサルティング事業を展開するトライベック株式会社と、ワンストップでDX推進、オムニチャネル/OMO対応のシステム導入を支援する株式会社エスキュービズムの2社が、「買われるECのUXデザイン戦略」というテーマでオンラインセミナーを開催しました。本セミナーでは、それぞれの企業視点からUXを向上させるためのデザインと購買体験のヒントについて解説しました。

買われるECのデザイン戦略

——コーポレートスローガンに「リテールイノベーション」を掲げ、企業のDXを支援する株式会社エスキュービズム。ソリューションデザイン部 部長の岩井源太のセッションでは、「体験から始まるストーリー戦略」について紹介しました。

ECサイトのあり方の変化

ECサイトのデザインは収斂(しゅうれん)の歴史といえます。2005年頃、ECサイトはまだ試行錯誤の時代にありました。2010~2015年頃に大手サイトが基本的な形を確定させ、他社がそれに追随する形となっていきました。徐々に勝ちパターンが見えてきて、それに収斂していったのです。2022年の現在はある程度の形が決まり、バリエーションが多数存在する状況になっています。

こうした歴史の背景には、店舗の購買体験とは異なるECサイトならではの理由があります。

1、学習効果を高めたい

成功しているECサイトの良い点を取り入れていったため、似たような機能を持つECサイトが増えていきました。

2、ゼロベースでの知識化を避けたい

独自性の高いデザインでは他社サイトでの購買に慣れた消費者に購買されないおそれがあります。そのため、共通言語を持つような類似性の高いデザインが採用されてきました。

共通言語の例としては、ECサイトやWEBサイトでよく見るアイコンが挙げられます。カートマークでショップや購買に関する情報を表現していたり、虫眼鏡マークでは検索ができたり、ドキュメントアイコンやクーポンのアイコンもユーザーの多くに共通認識があります。
ほとんどのサイトでこれらのアイコンは同じ意味を持ち、ユーザーに混乱を与えずスムーズにECサイトを利用してもらうことができます。

アイコンと同様に、デザインインターフェースも極力同じようなものを取り入れ、他サイトで得た学習を自サイトでも継続して活用することが求められてきたのです。

その結果、ECサイトのデザインは効率性を重視したAmazonのようなデザインスタイルに落ち着いていきました。ユーザーに「効率的に購買をさせる」という点では優れたデザインです。セオリーに則っているためユーザーに理解してもらいやすく、独自の解釈を必要としないからです。

一つの形にまとまりつつあったECのデザインやインターフェースが、再び多様性を持ち始めています。自社製品を直接顧客に販売するD2Cではマス向けの広告では魅力を伝えきれないことから、Amazonのようなマス志向の大手サイトとは一線を画し、自社製品の魅力やメッセージを存分にアピールするようなデザインになっています。
デザインに独自性が生まれ、「魅せるECサイト」として新しいかたちを生み出しているのです。

これからのECサイトのインターフェース

今までのEC購買では、ブラウザや検索エンジン、yahooなどのポータルサイトを入り口とし、検索結果からコンテンツへと段階を踏むプロセスがほとんどでした。そのプロセスごとにリーチする手段を取ってユーザーにアプローチしていたわけですが、現在はこの「検索する」行為が減少傾向にあります。

SNS等で受動的に情報収集をする、SNS内で検索をする、ハッシュタグを使って回遊する、というようにそもそも検索をしないケースも増えてきていると予想されます。
パーソナライズやレコメンドにより、積極的・自発的に検索をしなくても、潜在ニーズを汲み取って類似提案を受けるため、探さなくてもよい時代になってきているのです。
これは流入してくるユーザーの多様化にも繋がっていると考えられます。

細分化する顧客ニーズに適応するための受け皿として、検索エンジン以外にも、SNS、UGM(ユーザージェネレイテッドメディア)がありますが、では、これらにどうアプローチしていけばよいかというと、新しいECサイトのキーワード「ヘッドレスコマース」がポイントになってきます。
ヘッドレスコマースとは「ユーザーのタッチポイントをすべてECサイトに変えてしまう」という考え方です。
たとえば食品メーカーが運営しているレシピサイトがあり、SNSなどからレシピページに流入があった場合に備え、そのページにECに機能を持たせておく、ということです。
キャンペーンのLPや商品ページ、スタッフのオススメコーディネート紹介など、今後は顧客接点に合わせたデザインがこれからのECサイトには必要になってくるでしょう。

多様なインターフェース、多様な見た目、多様なUXに対応するため、ヘッドレスコマースではUIとシステムを切り離し、複数のUIに一つのECシステムで購買機能を提供します。従来のECシステムと異なり、有機的にフロントエンドを追加することができます。

一つのECサイトインターフェースですべてを賄うことはできない時代になっていますので、ヘッドレスコマースの技術を使って購買パターンを考えていくべきです。
それぞれのユーザーが「いる場所」をECサイト化することにより、ドロップダウンの少ない誘導が実現可能となるでしょう。

MAツールで実現する“買われる”仕組み

——CX Consulting PartnerとしてヒューマンインサイトCXメソッドに基づく統合的なDX支援・コンサルティング事業を展開するトライベック株式会社 DXプラットフォーム事業 HIRAMEKI XD事業部 セールスユニット ユニットリーダー 井上友佑氏のセッションでは、「MAツールで実現できる体験構築」について解説されました。

オンラインで「購買の意思決定」を後押しするMAツール

顧客体験(UX)、購入体験が注目される理由として、お客様との接点がデジタル化し、エンゲージメント、関係を作る場面において難化してきている点が挙げられます。
エンゲージメントが取れればお客様の意思決定に寄与でき、継続的な購買、それによるLTVの向上といったところにつながってくるため、注目されているキーワードです。

コロナ禍によってEC利用者が増加し、BtoC EC市場が拡大しています。また安価なプラットフォームの登場によって店舗からECへの転換が加速し、競争は激化。実店舗での従来通りのビジネスが展開できない中、ECサイトの需要は今後も増加していくと予測されます。
競合他社と差別化をし、エンゲージメントを獲得するには顧客ニーズに応える顧客体験の設計が必須になってくるのです。

しかし、顧客体験、購入体験の設計を実施するにあたって、各企業様では以下のような課題があるようです。

  • データが点在しており、充分な分析ができない
  • 購入前離脱に対する対策ができていない
  • 再来訪、リピート購入につなげられていない

これらの課題を解決し、「買われる」ECの実現に一歩近づくためのソリューションとして、当社ではMA(マーケティングオートメーション)ツールを提供しています。
MAツールは顧客の様々なデータを統合し、状況・行動に応じてOne to Oneマーケティングアプローチを可能にするものです。

実店舗などのオフラインの購買プロセスでは、お客様の見た目や趣向、ニーズに合わせ、店舗スタッフが最適と思われる接客をすることによって購買の意思決定を後押しします。ECサイトなどのオンライン購買では「購買の意思決定」を後押しするのがMAツールのようなデジタル技術です。

サイトの閲覧情報や過去の購買履歴など、顧客との接点をデータ化し、顧客の悩みや購買検討のキャッチアップを行い、適切なタイミングでアプローチを行うことでオフラインと同様に購買の意思決定に寄与できるツールになっています。

購入回数を増やしたい場合には、カート放棄(カゴ落ち)をフォローする、閲覧放棄をリマインドする、お気に入り登録商品のオファーを出す、というシナリオが有効です。
また、購入点数を増やしたい場合には、値下げ(セール)通知、在庫わずか/再入荷通知、ポイント利用促進通知などで購入を促進することができます。

では、「買われる」ECサイトはどのような取り組みをしているかというと、カート放棄のリマインド、閲覧放棄のリマインド、再入荷通知、といったシナリオを組んでいることが多いという調査結果があります。
なかでも、カート放棄や閲覧放棄のリマインドは、シンプルではありますがユーザーの購入体験を阻害せずに買われるサイクルを作れるため採用率が高いシナリオです。

実践企業から学ぶベストプラクティス

1:カート放棄リマインド

カートに商品を入れたまま、一定期間経過している、いわゆるカゴ落ちといわれる状態が「カート放棄」です。商品の購入検討度が高いユーザーのためCVRが高く、施策が当たれば確実に利益が見込めるターゲットです。

当社ユーザーの事例では、カートに商品投入後1時間でリマインドを行う企業様が非常に多く、当日中にフォローすることで検討度が高いお客様に購入につながる体験を生んでいると考えられます。また、配信する内容も「カート放棄商品のみ」のお知らせとし、読ませるコンテンツやメッセージを盛り込まずシンプルな訴求が有効とする傾向にあります。

一般的なメルマガに対し、カート放棄のリマインドメールは開封率、クリック率、CVRいずれも高い数値が出ています。

2:閲覧放棄リマインド

商品閲覧後にカートに商品を投入せず、ページやサイトから離脱している状態を当社では「閲覧放棄」と定義しております。カート放棄の一段階手前で、CVRはそれほど高くありませんが、ターゲットの範囲は広がるため反応があった際に売上へのインパクトが大きいシナリオです。

フォローを行うタイミングは当日中、あるいは1日後、というケースが多く、購入検討度を上げてもらうために早めにアプローチをすることがポイントになってきます。配信頻度は3日程度と、メール通知が過剰にならないようなバランスを取っている企業様で効果が出ているようです。

配信内容はカート放棄フォローと異なり、関連商品やランキングなど、ユーザーの興味を引く内容を掲載し、サイトの再来訪を促す仕掛けづくりが行われています。
こちらも、開封率、クリック率、CVRなどは一般的なメルマガよりは高い傾向になります。

この2つのシナリオを並行して実施することで、購入プロセスの「意思決定」フェーズを抑えられ、購入機会を提供しつつ売上に寄与することができている事例もあります。

施策を行う際には顧客体験を意識したロジックを反映し、実際にお客様がどう考えるか、ユーザー心理を考慮した上で配信時間や頻度、コンテンツ内容を設計することが成功のカギといえます。

まとめ

1、ECサイトのデザインは収斂の歴史を持つ
ユーザーの購買行動を効率化できる大手ECのサイトデザインがマス向けとして定着
→マス向けのECデザインでは魅力を伝えきれないため独自的なデザインの新しいECサイトが生まれつつある
2、これからのECサイトのインターフェースは多様化する
一つのECサイトインターフェースですべてを賄うことはできない時代に
→顧客とのタッチポイントをすべてEC化する「ヘッドレスコマース」の考え方に注目すべき
3、「買われる」ECサイトが実践している取り組み
カート放棄、閲覧放棄の購買検討段階に最適なタイミングとコンテンツでアプローチ
→購買プロセスの「購買の意思決定」を後押しするMAツール活用が重要

登壇社紹介

トライベック株式会社 【HP】https://www.tribeck.jp/
ヒューマンインサイトCXメソッドに基づく統合的なDX支援・コンサルティング事業を展開。トライベックは、「つなぐデジタル」で企業ブランドを進化させ、「ひとにやさしい」マーケティングで企業ロイヤリティの最大化を支援する、CX Consulting Partnerです。
株式会社エスキュービズム
「Retail Innovation」をコーポレートスローガンに掲げ、流通小売業をはじめとする企業のICT/DX推進、オムニチャネルやOMOなど次世代型ビジネスモデルの課題解決を実現するシステムベンダーです。 リアル店舗とECシステム、コールセンターなど、複数チャネルの在庫・オーダーマネジメントが実現可能な自社開発システムパッケージを有しているため、完全ワンストップで企業のDX推進、デジタル化、オムニチャネル/OMO対応のシステム導入を支援いたします。