買われるECのデザイン戦略
——コーポレートスローガンに「リテールイノベーション」を掲げ、企業のDXを支援する株式会社エスキュービズム。ソリューションデザイン部 部長の岩井源太のセッションでは、「体験から始まるストーリー戦略」について紹介しました。
ECサイトのあり方の変化
ECサイトのデザインは収斂(しゅうれん)の歴史といえます。2005年頃、ECサイトはまだ試行錯誤の時代にありました。2010~2015年頃に大手サイトが基本的な形を確定させ、他社がそれに追随する形となっていきました。徐々に勝ちパターンが見えてきて、それに収斂していったのです。2022年の現在はある程度の形が決まり、バリエーションが多数存在する状況になっています。
こうした歴史の背景には、店舗の購買体験とは異なるECサイトならではの理由があります。
1、学習効果を高めたい
成功しているECサイトの良い点を取り入れていったため、似たような機能を持つECサイトが増えていきました。
2、ゼロベースでの知識化を避けたい
独自性の高いデザインでは他社サイトでの購買に慣れた消費者に購買されないおそれがあります。そのため、共通言語を持つような類似性の高いデザインが採用されてきました。
共通言語の例としては、ECサイトやWEBサイトでよく見るアイコンが挙げられます。カートマークでショップや購買に関する情報を表現していたり、虫眼鏡マークでは検索ができたり、ドキュメントアイコンやクーポンのアイコンもユーザーの多くに共通認識があります。
ほとんどのサイトでこれらのアイコンは同じ意味を持ち、ユーザーに混乱を与えずスムーズにECサイトを利用してもらうことができます。
アイコンと同様に、デザインインターフェースも極力同じようなものを取り入れ、他サイトで得た学習を自サイトでも継続して活用することが求められてきたのです。
その結果、ECサイトのデザインは効率性を重視したAmazonのようなデザインスタイルに落ち着いていきました。ユーザーに「効率的に購買をさせる」という点では優れたデザインです。セオリーに則っているためユーザーに理解してもらいやすく、独自の解釈を必要としないからです。
一つの形にまとまりつつあったECのデザインやインターフェースが、再び多様性を持ち始めています。自社製品を直接顧客に販売するD2Cではマス向けの広告では魅力を伝えきれないことから、Amazonのようなマス志向の大手サイトとは一線を画し、自社製品の魅力やメッセージを存分にアピールするようなデザインになっています。
デザインに独自性が生まれ、「魅せるECサイト」として新しいかたちを生み出しているのです。
これからのECサイトのインターフェース
今までのEC購買では、ブラウザや検索エンジン、yahooなどのポータルサイトを入り口とし、検索結果からコンテンツへと段階を踏むプロセスがほとんどでした。そのプロセスごとにリーチする手段を取ってユーザーにアプローチしていたわけですが、現在はこの「検索する」行為が減少傾向にあります。
SNS等で受動的に情報収集をする、SNS内で検索をする、ハッシュタグを使って回遊する、というようにそもそも検索をしないケースも増えてきていると予想されます。
パーソナライズやレコメンドにより、積極的・自発的に検索をしなくても、潜在ニーズを汲み取って類似提案を受けるため、探さなくてもよい時代になってきているのです。
これは流入してくるユーザーの多様化にも繋がっていると考えられます。
細分化する顧客ニーズに適応するための受け皿として、検索エンジン以外にも、SNS、UGM(ユーザージェネレイテッドメディア)がありますが、では、これらにどうアプローチしていけばよいかというと、新しいECサイトのキーワード「ヘッドレスコマース」がポイントになってきます。
ヘッドレスコマースとは「ユーザーのタッチポイントをすべてECサイトに変えてしまう」という考え方です。
たとえば食品メーカーが運営しているレシピサイトがあり、SNSなどからレシピページに流入があった場合に備え、そのページにECに機能を持たせておく、ということです。
キャンペーンのLPや商品ページ、スタッフのオススメコーディネート紹介など、今後は顧客接点に合わせたデザインがこれからのECサイトには必要になってくるでしょう。
多様なインターフェース、多様な見た目、多様なUXに対応するため、ヘッドレスコマースではUIとシステムを切り離し、複数のUIに一つのECシステムで購買機能を提供します。従来のECシステムと異なり、有機的にフロントエンドを追加することができます。
一つのECサイトインターフェースですべてを賄うことはできない時代になっていますので、ヘッドレスコマースの技術を使って購買パターンを考えていくべきです。
それぞれのユーザーが「いる場所」をECサイト化することにより、ドロップダウンの少ない誘導が実現可能となるでしょう。