コロナ後のオムニチャネル戦略
——コーポレートスローガンに「リテールイノベーション」を掲げ、企業のDXを支援する株式会社エスキュービズム。ソリューションデザイン部 部長の岩井源太のセッションでは、オムニチャネル戦略の中でも「ECの売上向上に寄与するEC接客」について解説しました。
ECの成功条件が大きく変化
ECパッケージを提供、ECサイトの構築を行っている立場から見ますと、ECサイトの成功条件というものは種々あります。これまでは定常的に集客や売上の数値がベンチマークとして設定されてきました。
近年新たに追加された成功条件として「店舗のフォローアップ」が挙げられます。
いままではECサイトと店舗はECサイト単独で集客を行い単独で売上を上げればよい、または店舗に対して若干のアシストコンバージョンがあればよい、という関係性でした。ECと店舗では管理部門が異なり、目標が違うため役割も別々である、という考え方が影響していたと思います。
しかし、コロナ禍により企業としての考え方にも変革が求められるようになりました。長期・複数回に渡って発令された緊急事態宣言により、ECサイトに接触するユーザーが増加し、逆に店舗訪問客は減少する形になったのです。オンラインの比重が大きくなり、ECと店舗の役割は大きく変わりました。
書籍や映像、音楽ソフト業界などではEC化率が40%を超え、家電やAV機器、PC機器業界でもオンラインが主戦場になりつつあります。すべての業界でまんべんなくEC化率がアップし、市場規模が縮小していてもEC占有率は上がってきています。まさにEC化待ったなしの状況になっているといえるでしょう。
これによって引き起こされる問題もいくつかあります。
顧客行動の変容に伴う課題
EC化率が各業界で上がっているにも関わらず、自社ECの売上が伸びないという方もいらっしゃるでしょう。
大幅に増えたはずのユーザーが今どこにいるのかというと、大手モールにいるのです。
月刊ネット販売で実施した売上高調査「ネット販売白書」によると、Amazonや大手家電量販店が売上高の上位を占めています。
コロナ禍の影響でECを利用し始めたユーザーが、認知度が高く安心感のある大手サイトからまだ一歩踏み出せていない状況といえます。こうしたユーザーはブランドの自社ECサイトにはまだ流入してきていません。
店舗では専門的な知識を持ったスタッフに質問すれば良いのですが、ECサイトでは最適な商品を選び、購買を決定するために必要な情報収集を行って自己解決する必要があります。
このため、ECサイトでの購買経験値がまだあまりないユーザーにとっては敷居が高い状態になっています。
さらに、SNSの普及により積極的に検索を行わない、大手サイトのレコメンド機能に頼ってしまうといった、商品購買を判断するための前提知識が不足傾向にあると思われ、検索リテラシーや検索モチベーションが低下しているのではないかと推測されます。
アフターコロナの時代には、ユーザーの行動はさらに変化し、オンライン、オフラインのチャネル間を自由に行き来する「チャネルホッパー」になると考えています。
店舗で実物を見て確認をしたユーザーが、ECサイトで他社と比較して購入するショールーミングタイプの購買行動が増えていくのではないでしょうか。
比較検討の結果、他社ECで購買されてしまった場合、店舗スタッフのリソースが割かれて売上につながらず、自社商品の宣伝にはなるが結果的にはデメリットになりかねません。
さて、ショールーミングを行うユーザーの実店舗来店目的を見てみると、主に以下の4点になっています。
1、実物の感触を知りたい
2、店舗スタッフに質問をしたい
3、サイズ感を知りたい
4、まずはカジュアルに見たい
「実物を見たい」というニーズの中でもいくつかの要素があることがわかります。こうしたユーザー心理がどこで解決するのかといいますと、実店舗訪問により気になっている商品を「ほしい」と思わせ、購買に誘導できた時点となります。
この「ほしい」と思わせる効果に特化した実店舗形態がポップアップストアといえます。
勝ち残るために強化するポイント
オムニチャネルというのは、ユーザーの購買行動がオンライン、オフラインに関わらずどこで行われてもよい、という考え方です。商品に注目した場所はEC(オンライン)、体験は店舗(オフライン)、購買はEC(オンライン)、受け取りは最寄り駅のロッカー(オフライン)といったように、どんな場所、状態であっても同様のサービスを提供できることが重要です。
前段で解説したように、ショールーミングの傾向が強まる場合は、体験、説明といった機能要素が実店舗で行われるでしょう。今後、体験や説明をオムニチャネル化して推進していくことがECを成功させる上で重要なポイントとなっていきます。
1:体験のオムニチャネル化
リアルチャネルでの行動をデジタルチャネルへ共有することにより、ECでの購買をよりスムーズに行えるようになります。海外のアパレル店舗での施策を例にすると、店舗で手にとった商品がECやアプリで「閲覧商品」として残っていれば、検索して探す必要がなくなります。
チャネル間の分断をテクノロジーによって無くし、購買行動をシームレスに続けることができるように設計することが欠かせなくなっています。
2:説明のオムニチャネル化
チャットボットやWeb接客を使った案内というものも必要性が高くなってきています。
今後はデジタルとリアル双方のデータを活かし、店舗ならではの情報をデジタルでも活用できるよう相互補完を目指していく必要があるでしょう。