コロナ後のオムニチャネル戦略
——コーポレートスローガンに「リテールイノベーション」を掲げ、企業のDXを支援する株式会社エスキュービズム。ソリューションデザイン部 部長の岩井源太のセッションでは、「これからの時代のオムニチャネル」について解説しました。
デジタルチャネル・顧客行動の変化
コロナ禍により、ECに接触する人が増え、店舗に訪れる人が減っているという変化が見られます。ECの利用が日常的になり、オンラインの比重が増え、EC、店舗の役割が大きく変わりました。書籍・映像・音楽ソフトといったコンテンツ業界ではEC化率が40%を超え、それ以外の分野でも軒並みEC化率が増加しています。市場規模の縮小が見られる中でもECの占有率が上がっていることが調査結果からもうかがえます。
増加したEC利用者の定着、家庭でのネットショッピングでの支出割合も増加するなど、「ECを使うのが当たり前」といった状況になりつつあります。大手家電量販店などではEC化率が30%超と、実店舗以外のEC市場でもビジネスを拡大できているものの、売上ランキング上位の大手サイトにユーザーが一極集中しているということもまた事実です。 EC利用歴が浅い顧客層が、Amazonや楽天などの大手サイトから一歩踏み出せていない現状がありますが、今後ユーザーのモードチェンジ、シフトチェンジが発生する可能性は大いにあります。
実店舗を見てみますと、コロナ禍の自粛要請で訪問する人が減った店舗に対し、緊急事態宣言の解除により顧客が戻り、今後しばらくは盛り上がりが生まれると予想します。 しかし、この盛り上がりが一過性のものか、継続的なものかを見極める必要があります。
増加したEC利用者の中には、利便性を重視しそのままECでの購買を継続するなど、ビフォアコロナの状態に100%戻ることは恐らくないでしょう。 ネオマーケティング社の調査では、実店舗で購入するものとして「食品・飲料・酒類」というエッセンシャルな品目が割合が大きく、「衣類・アクセサリー・小物」「本・CD」はECサイトに集約されています。「家電」「については店舗、EC双方を利用するという回答が多く見られました。商品特性や購買状況に応じて、店舗とECを使い分けていることが分かる結果となっています。
引用:全国の20歳~79歳の男女1000人に聞いた「リアル店舗とオンラインショップ、どう選ぶ?」https://neo-m.jp/investigation/3227/ (株式会社ネオマーケティングの調査結果より引用)
実店舗で購入する理由としては「陳列棚に並んでいる商品全体が見たい」「商品を手に取って確認したい」といった理由が上位にあり、実際の店舗で体験しながら選びたいというニーズが見てとれます。
また、ECでの購買までの行動で、商品を選ぶまでに口コミサイトや掲示板などをチェックする、ブラウザ検索で商品詳細をよく見る、に続いて「実店舗に行って商品を確認する」「実店舗で値段の比較をする」といった行動が上位に挙げられています。 実店舗という選択肢は消費者の中で明確に存在することは確実で、実店舗で実現できる機能や要素が存在しているのです。
実店舗に来ても商品を確認するだけで実際にはECサイトで購入する購買行動をショールーミングといいますが、これまで実店舗側では忌避される行動でした。しかし、「実物を見たい」という顧客ニーズが今後も無くなるわけではなく、購買するECサイトがその店舗のものであればむしろ歓迎すべき行動に変化します。 店舗とECの役割をしっかりと設計し、相互送客できるようになっていけば、ショールーミングの課題は大きく改善できると考えられます。
世界では「リテール」と「エンターテインメント」を掛け合わせた「リテールテインメント」という言葉が生まれ、小売の世界をよりエンターテインメントに寄せて行こうとする動きがみられます。
ブロック玩具のレゴでは商品世界を体験してもらうための美術館のような店舗展開、ロンドン発のファッション小売ファーフェッチでは、アプリをダウンロードしているユーザーが店舗に入店するとすぐに顧客情報が認識され、適切なレコメンドを実店舗でも行うというオンラインとオフラインの融合が行われています。
店舗を徹底的に「体験価値提供の場」として切り分け、自社の世界観を顧客に体験してもらい、購買はECにすべて振るような店舗も出てきています。 これからのオムニチャネルでは、デジタルチャネルとリアルチャネルを近づけ、垣根をより低くしていくような施策が増えていくと考えられます。
これからのオムニチャネルの形
デジタルチャネルの変化としては、デバイスがスマホ主軸になってきたこと、ECでの購買率の向上、利用している場所が変化したことがあります。リアルチャネルでも購買よりも体験に価値がおかれるようになってきているという変化があります。
これまでよりもオムニチャネルとして連携するチャネルは増加し、連携後のデータ活用においてもステップが多様になっています。 チャネル間の連携が強くなった結果、ユーザーはオンラインとオフラインをチャネルホップし、チャネル間を自在に行き来するようになりました。
EC、店舗の役割やあり方は従来と比較して曖昧になり、ECと店舗の選択はその時々の状況によって変わります。双方の情報を活かしあうことが必要になってきているのです。
1、店舗の価値を新しく生み出す 2、店舗の機能を販売だけに限定させない 3、オンラインの複数チャネルでのホップを効果的にする
といった、新しいオムニチャネルのパターンを実現するために、よりリアルとデジタルの機会・時間・接触点を問わない連携、融合が求められるようになっていくでしょう。 オムニチャネルを活かした業務アプローチによって、購買体験を変えていっていただければと思います。