食品ECの新たな取り組み。食品ロスを削減、物流課題を企業間で解決

2019年以降、少しずつ拡大してきた食品のEC化率ですが、2021年には市場規模が2兆円を大きく超え、2022年頃からは日常の食品をECで注文するニーズも高まり、それに伴ってミールキットや解凍するだけで食べられる料理のEC販売も消費者に支持されるようになってきました。

同時に食品ECで注目されているのが、食品ロス削減を掲げるプロジェクトやサービスです。

ホテルやケーキショップといった、ブランディング上、値下げを行いにくい形態の店舗と消費者をつなぐマッチングサービスや、おいしく食べられるのに廃棄されてしまう規格外商品をアウトレットや訳あり品として販売するシステムが成功を収め始めています。

食品ECの成功には、手に取って実物を確かめたいという消費者意識をどう乗り越えていくか、安い単価と高いコストでどうやって利益を出していくかといった課題解決が求められます。

さらに、物流の2024年問題を解決しなければ、食品を安全に消費者の元へ安定して届け続けることは難しくなるかもしれません。この問題については、大手食品関連企業では協働の動きも見られる等、模索が続いています。

本稿では、変化を続ける食品ECの需要と可能性を、数字と成功事例で紹介します。

ECでの食品購入が日常に

ECの市場規模において、食品分野が占める割合は年々増加しています。

2019年のBtoC-EC市場において、食品・飲料・酒類の市場規模は1兆8,233億円でしたが、2020年は2兆2,086億円、2021年は2兆5,199億円と順調にその規模は拡大しています。

また、全商取引に対する電子商取引の割合を表すEC化率も、2019年の2.89%から2020年の3.31%、2021年の3.77%と順調に数字を上げているのが分かります。

引用:令和3年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)

これまで、いわゆる「お取り寄せ」は敬老の日やクリスマスの際の贈答品として、また誕生日や記念日に合わせた特別なメニューとして利用される風潮がありました。

しかし、2022年の食品通販は、普段の食卓で食べる需要が多くを占めているという結果が出ました。 近年は特別な時のお楽しみ、贅沢品の一環とされてきたお取り寄せが、普段使いの気軽なものとして利用され始め、傾向に変化が生まれています。

こうした傾向に関連してか、最高級品よりも「訳あり品」、「お試し価格品」等のお得なお取り寄せがよく好まれています。

また、解凍後すぐに食べられる食品や、鍋セット、ミールキットのような簡単調理を謳う食品がよく注文される傾向も見られ、普段用の食材としてお取り寄せが利用されるニーズと合致しています。

食品EC市場の拡大

スーパーやコンビニといった食品を扱う店舗では、賞味期限が過ぎていなくても期限を3分の1ほど残した状態で廃棄する、あるいは納入業者に返品するという習慣があります。

このような食品をEC市場で販売するという新たなトレンドが、注目されています。

賞味期限が近づいて廃棄される予定の食品は、ケース単位で通常より安く販売されます。販売されるのは、お菓子や飲料、調味料、缶詰、カップ麺といった食品が多く、食品ロス削減の一助になっています。

お取り寄せのトレンドが変化

ECで近所では買えない食品をお取り寄せする楽しみは、コロナ以前から人気でした。

昨今では、特にSNSの投稿を見てサイトへ遷移する流れが見受けられます。

ある調査では、SNSで商品を見たことをきっかけにお取り寄せをしたことがあると回答した割合が、5割を超えました。

特に、InstagramやTwitterの投稿を見て商品を知ったり、興味を惹かれたりしたと回答した人が多く、食品通販のマーケティングを行う上でもSNSが強い訴求力を持っていることが明らかになっています。

ECで生まれた食品ロスを削減する試み

食品ECは、食品ロス削減にも役立っています。

食品ロス削減はSDGsの目標の一つとしても掲げられていて、国内では2019年に「食品ロス削減推進法」が施行される等、社会全体で取り組むべき問題とされています。

食品ロスまたはフードロスというワード自体も徐々に浸透してきていますが、2020年度の国内の食品ロス量は522万トンとまだまだ多く、さらなる抜本的な取り組みが求められています。

食品ロスを減らす試みには、廃棄されやすいものを上手く組み合わせたミールキットの開発や、賞味期限を年月日表示から年月表示に変更するといった対策まで、様々なものがありますが、いずれの施策を講じるにせよ、業界や事業者がサスティナビリティの考え方を持って事業を展開することが重要です。

実際、食品ECの分野でもサスティナビリティを感じさせる事例が出てきています。

企業間連携で食品ロスを削減

ホテルのブッフェは、そのホテルの目玉にもなり得る人気のサービスメニューですが、廃棄する食品が多くなりがちな形式であることが、以前から問題になっていました。

ブッフェは、顧客が好きなものを好きなだけ盛って食べるというスタイル上、利用人数よりも多い量の料理を廃棄前提で作らなければなりません。また、ブランディングの関係上、ブッフェで残った料理をホテル内で割引販売することも難しいとされていました。
ケーキやパンを扱う中食産業も、これと同様の問題を抱えています。

現在、これらの食品とユーザーをマッチングするアプリが、まだ美味しく食べられるのに廃棄される食品を削減するのに役立っています。

アプリの特筆すべき点は、ユーザーを「廃棄される食品を救うヒーロー」と位置付けていることです。食品を買うのではなく、「廃棄から救う」という道筋を構築することで、ユーザーの意識をエシカルな考え方やサスティナブルな方向へと自然に導いています。

消費者心理として多く見られるのが、安く食品を買いたいという気持ちは強いものの見切り品を選択するまでには至らないというものです。
もったいない食品を救うというストーリーは、消費者が見切り品を選択する動機としてうまく機能しています。

このアプリは、登録店舗約2,500店を有し、これまでに50万食以上の食品ロス削減を達成しました。

ホテルや中食の提供店舗はアプリ事業者と提携することによって、食品ロスを削減できるだけでなく、アプリを通じて食品を購入した顧客を、ホテル(店舗)の新規顧客として獲得する可能性をも獲得しています。
さらに、店頭で値下げ販売するわけではなく、アプリ内決済を行うことでブランドイメージを保てることも、アプリが支持されている理由の一つです。

多くの店舗にとって、丹精込めて作った食事を廃棄するのはコスト面だけでなく心理的な負担も大きく、それを軽減する意味でもアプリの利用が活発化しています。

規格外食品を消費者へ

形が悪くて売り物にならない、いわゆる訳あり品を販売したい企業と消費者をつなぐ取り組みも注目されています。

例えば、日持ちのしないお菓子の規格外食品を、鮮度が落ちないように冷凍保存して自販機で販売する取り組みや、アウトレット食品として販売するプログラムが注目されています。

食品宅配大手では、不揃いな規格外の野菜は加工してカット野菜とし、加熱や冷凍によって可食部を増やす等の工夫をして提供しています。
また、日本百貨店協会は、食品ロス削減を目的として食べきれない料理を顧客に持ち帰ってもらうための専用ボックスを用意し、持ち帰りをすすめる実証実験を行っています。

コロナ禍のステイホームでホテルやレストラン用に卸している食材の余剰在庫が膨らみ、こうした食品が「訳あり品」や「アウトレット」として販売されたことによって、見切り品に対するハードルは低くなっているかもしれません。

事実、野菜のアウトレットは、食品ロス削減への意欲、内食需要や物価高騰という複数の要素が複合的に関係して消費者の購買意欲に変化をもたらしています。

食品ECの課題解決のポイント

これまで、食品のEC化率は、衣料品や家電、書籍といった他の商品と比較すると低い傾向が続いていました。

食品分野のEC化率を上げることは全世界的な課題でもあり、コロナ禍を経てますます成長が期待されていますが、それには、EC化する上でネックとなる3点をクリアする必要があります。

すなわち、消費者が手に取って実物を確かめたいというニーズが強い、単価が安い上にコストが高く利益が出しにくい、実店舗(スーパー等)の利便性が高くEC上での差別化が難しい、という3点です。

この解決には、実店舗の強みを活かしたEC化、そして実店舗で手に取って商品を選ぶのと同等あるいはそれ以上の顧客体験価値を創出すること、さらにはスムーズな配送のためのフルフィルメント業務効率化が求められます。

店舗、顧客体験、物流が課題

消費者が食品を選ぶ時には、匂いや質感、自分の目で見た色味といったECでは伝えられない要素が強く作用します。

店舗の利便性が高いのはこのためで、ECで食品を扱う場合はこの要素をいかに克服するかが鍵になります。具体的には、「ECでしか買えない商品」等、商品自体にプレミア価値をつけること、SNSマーケティングを駆使して注目を集め、商品が気になった顧客がスムーズに購入できるような使いやすいサイトを構築すること等が挙げられます。

SNSで口コミや紹介動画を見るという体験が、実店舗で食品を選ぶのと同じような体験価値を生み出し、匂いや質感といった画面越しでは伝えにくい部分を補ってくれます。

大手スーパーのように、実店舗とECで同じ食品を取り扱う場合は、物流の面での課題解決が急務となります。というのも、実店舗と同じ商品をECで販売する場合、購入する顧客が求めるのは迅速な配送だからです。時間指定可能であったり、購入から数時間以内に配達されたりといった利便性が、実店舗に出向いて購入する手間を上回った時、食品ECは成功したといえるでしょう。

物流について考える時、業界は2024年問題を避けて通ることはできません。

これまで適用外とされてきた自動車運転業務も同年4月から年間時間外労働時間が960時間に制限される、いわゆる2024年問題については、飲料メーカー各社が協働して対策を考えていくと発表しています。

現在の食品物流に関わるドライバーは、100時間/月の時間外労働を行っていると言われています。しかし、2024年以降は、80時間/月が上限となります。

現状でも物流はドライバーの高齢化、人手不足、若手ドライバーの離職増加と常にギリギリの状態で稼働しています。これを解決して持続可能な物流を整備するには、物流と食品業界との連携が不可欠と言われています。

これを受けて、飲料メーカー各社は、共同配送や自販機オペレーションについて検討を重ねていくことが発表されています。

すでに、味の素・ハウス食品グループ本社や日清製粉ウェルナ等は、一部の物流事業を統合して共同配送を行なっていて、今後食品業界に共同配送を含めた協働の動きが広がっていくかもしれません。

物流の効率化は費用対効果を最大にしたい企業だけでなく、安全でスピーディな配送を望む消費者にとっても重要な問題です。

ECの市場規模拡大によって、ネットで頼んだ商品が即日届く便利さをすべての消費者に届けるのは限界に近いと叫ばれている今、食品のECはそれをどのようにクリアしていくべきか、考えどころと言えそうです。