キャッシュレス決済の現状は?クレジット以外の普及状況を調査

キャッシュレス決済といえば、日本ではクレジットカードが主流です。しかし生活様式の変化やスマートフォンの普及に伴い、様々なキャッシュレスサービスが誕生しています。
キャッシュレス決済が進めば、消費者にとって利便性の向上やポイント還元といったメリットがあります。小売店側にも効率化などメリットはあるものの、導入費や手数料をはじめとする負担増など課題も少なくありません。
この記事ではキャッシュレス決済の現状について、普及状況や普及における課題を解説いたします。
目次
キャッシュレス決済の普及状況
小銭やお札といった現金以外の決済方法全般を指す「キャッシュレス決済」。スマートフォンの普及に伴い広がりを見せていましたが、コロナ禍によって急速に普及が進んでいます。
キャッシュレス決済はポイントが貯まり還元率が高いこと、レジでの会計がスムーズといった点が消費者における大きなメリットです。最近ではセルフレジを導入する小売店も増えていますが、「キャッシュレスのみ」とする店舗も少なくありません。
電子マネーやQRコードもキャッシュレス決済方法として普及し始めていますが、日本のキャッシュレス決済ではまだまだクレジットが主流です。まずは国内のキャッシュレス決済について、現状を見ていきましょう。
クレジット決済が引き続き主流
の調査によると、買い物の支払いでキャッシュレス決済を使用している消費者は全体の80%とかなり比率が高いことが分かっています。その中でもキャッシュレス決済の割合は、以下の通りでした。※
※参照: キャッシュレス化推進から3年、約9割がキャッシュレス決済を使用する中、財布に入れる現金は平均5,000円減少
https://newsroom.jp.paypal-corp.com/2022-10-04-PayPal-Paidy-Research
- 1位:クレジットカード(64.7%)
- 2位:QRコード(48.9%)
- 3位:電子マネー系ICカード(29.9%)
上記の数字でわかる通り、キャッシュレス決済ではクレジットカードが半数以上となっています。
特にクレジットカードはスマートフォンが普及する前から消費者に浸透しており、キャッシュレス決済の先駆けといえるでしょう。利用者の年代で見ると、クレジットカードの利用頻度と金額の両方とも60~69歳までの消費者が最も高くなっており、強く根付いていることがわかります。
電子マネーでのキャッシュレス決済も普及拡大中
クレジットが圧倒的に主流のキャッシュレス決済ですが、電子マネーも利用が拡大しています。電子マネーといえばICカードなどの交通系やスーパーなどの流通系、クレカを連携させたクレジットカード系やQRコードと種類が多く、続々とサービスが増えています。
前述の調査では電子マネー系ICカードで決済を行う消費者は29.9%と、クレジットカードの64.7%に比べればまだまだといった印象です。
しかし、コロナ禍で生活様式が変わったり無人レジが普及したりと商習慣も大きく変わり始めているため、今後の伸びしろは期待できるでしょう。
QRコード決済は生き残るか
キャッシュレス決済で爆発的にサービスが増えているものといえば、「○○ペイ」と呼ばれるQRコード決済です。
QRコード決済は、店舗側が提示したQRコードを消費者が読み取る「ユーザースキャン方式(MPM方式)」と、ユーザー側のQRコードを店舗側が端末で読み取る「ストアスキャン方式(CPM方式)」の2つに大別されます。
昨今のキャッシュレスブームにおいてQRコードだけが大きく失速する可能性は低いかもしれません。しかし消費者の立場から見ると、QRコードには複数の課題があります。
最大の課題といえば、QRコード決済が機能しないリスクがある点です。決済アプリの不具合、スマートフォンの充電切れや紛失時はQRコードが使用できず、決済が行えません。
実はキャッシュレス化が進んでも「現金を利用したい」という消費者も一定数おり、その理由として通信障害、災害や停電時など不測の事態を想定している人も多いのです。
デジタル技術が発達した昨今では、キャッシュレス決済など便利な技術が生まれています。しかし、有事の際は機能しないこともあります。ECなどでも通信トラブルはつきまとうため、「アナログ(現金)は手放せない」という声も少なくありません。
さらにQRコードはスマートフォンを機種変更した場合は移行手続きが必要など、QRコードならではのデメリットも存在します。
ECにおいては、QRコード決済のアカウント情報を利用したID決済なら導入可能となっています。QRコード決済の普及率がさらに伸びれば、消費者が他社へ流れないよう、EC事業者も決済方法の対応を広げるといった対策を講じなければなりません。

利便性を追求していくキャッシュレス決済
キャッシュレス決済は利便性の追求が進み、タッチ決済やBNLPというサービスが生まれています。この2つについて、その特徴やメリットを見ていきましょう。
タッチ決済
タッチ決済とは文字通りタッチするだけで決済できる方法で、スマートフォンよりもクレジットカードにおいて注目が集まっています。
タッチ決済はクレジットカードを端末にかざすだけで決済できる点が特徴です。消費者はわざわざ財布からクレジットカードを出して店員に渡したり、スワイプしたりする必要がありません。
さらに署名(サイン)や暗証番号の入力が不要であり、それまでのクレジットカード決済よりも大きく利便性が向上しています。
タッチ決済は消費者側のメリットだけでなく、レジ時間の短縮や磁気不良などがなくなることによる業務効率化、そして顧客満足度の向上など店舗側にもメリットがあります。
実店舗決済である「楽天ペイメント」は、2022年秋ごろからVisa、Mastercard、JCB、American Express、Diners Club、Discoverの6ブランドのタッチ決済に対応することを発表するなど、普及が進んでいる決済方法です。※
※参照:「楽天ペイ(実店舗決済)」、クレジットカードのタッチ決済に対応開始
https://payment.rakuten.co.jp/news/2022102001/
BNPL
クレジットカードに替わる新しいキャッシュレス決済として注目されているBNPL。「今購入して後で支払う」(Buy Now Pay Later)の略であり、審査や分割手数料の点でクレジットカードと大きく異なります。
BNPLも与信サービスの1つですが、審査はクレジットカードほど厳しくありません。簡単な審査であったり、審査自体を設けていなかったりする事業者もあるほどです。
そしてクレジットカードでは分割手数料は消費者負担ですが、BNPLでは「店舗側」が負担します。手数料の割合もクレジットカードより高く、4~5%が相場です。
一見すると店舗側にメリットがないように見える BNPLですが、クレジットカードが持てない若年層を確保できたり、ECサイトにおけるカゴ落ちを防止したりといったメリットが期待できます。
BNPLについては、BNPLはキャッシュレス化の潮流の一つ で詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。
キャッシュレス決済の課題は残る
政府も促進しているキャッシュレス決済ですが、まだまだ消費者・事業者側両方において課題が残ります。
キャッシュレス決済が小売店の負担増に
現金の扱いが減る、売り上げや在庫をデータ化できるといったメリットがあるキャッシュレス決済ですが、小売店にとって、導入費用や決済手数料の負担は無視できません。
キャッシュレスの導入にはスマートフォンやタブレットといった専用端末、レシートプリンターや通信費といった設備投資が必要となります。さらに決済金額の約3%は決済手数料として店舗が負担する必要があり、小売店に重くのしかかります。
国の調査では、キャッシュレス決済を導入しない店舗における判断理由として最も多かったものが「現金のみで困っていないから」であり、次いで多かった理由が「決済手数料が高いから」でした。※
※ キャッシュレス決済の中小店舗へのさらなる普及促進に向けた環境整備検討会
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/cashless_payment/pdf/20220318_2.pdf
デジタルを介するキャッシュレス決済の普及が進んでも、“万が一”に備えて消費者はしばらく予備の現金を持ち歩くことになるでしょう。
経産省の推計では、キャッシュレス決済を8割まで引き上げると運営費が3割増えるという予測もあります。この費用を誰が不安するのかについては、国を巻き込んだ議論が必要でしょう。
デジタル賃金はキャッシュレス決済普及に寄与するか
キャッシュレス決済を進めるために、賃金自体をキャッシュレスにする“デジタル賃金”も進んでいます。決済アプリを使って賃金を支払う「デジタル払い」が厚生労働省の審議会で了承され、早ければ2023年度からデジタル賃金がスタートします。
デジタル賃金にすると、企業側には口座振り込み手数料などの経費削減というメリットがあります。ただしデジタル払いへの意向は労働者の同意が前提となっており、対象となる決済アプリなどの業者については労働者保護の観点から、国が指定するとしています。※
※厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03_00028.html
一方で、労働者側としては賃金移動業者が破綻した際の安全性や個人情報の取り扱いなど不安もあります。非キャッシュレス派の労働者の対応など、実現にはまだまだ議論が必要でしょう。
キャッシュレス決済方法について、日本の普及状況や新しいサービス、普及における課題をご紹介しました。
スマートフォンの普及やコロナ禍における生活様式の変化で、キャッシュレス決済も急速に広まりました。しかし消費者側・店舗側それぞれで課題は残っており、まだまだ発展途上といわざるを得ません。小売業者は大きな変化を見せるキャッシュレス決済をよく観察し、“今”の消費者に合わせた対応を検討していきましょう。