EC事業でユニコーン企業に。企業価値を上げる事業戦略とは

日本企業も創出を望んでいるユニコーン企業は、これまでユニコーンになりにくいとされているEC事業にも可能性が見え始めています。

これまで、評価額10億ドルの未上場企業という条件を満たすユニコーン企業は、バイオ系やフィンテック関連事業といった業種にしか手の届かない領域だと考えられていました。

ですが、コロナによる生活様式の変化に伴い、EC事業にも大きな成長を遂げられる可能性が見出されています。

実際に、ASEAN諸国をはじめとする東南アジアの国々では、一足先にEC事業の潜在的なニーズを掘り起こした事業が次々とユニコーンへ成長を遂げています。海外の事例を見ることで、国内のEC事業における戦略的な企業成長のカギを得ることができるかもしれません。

本稿では、小売企業がユニコーン企業になりにくいといわれていた理由とその背景、日本のユニコーン創出状況について触れています。

また、日本の状況をふまえた上でアジアを中心に諸外国のユニコーン企業育成シーンを紹介し、小売企業の目指すべき事業戦略について探りました。

小売企業はユニコーンになりにくい?

評価額10億ドル以上、未上場で、設立10年以内のベンチャー企業を「ユニコーン企業」といいます。

日本円に換算すると約1,100億円という高い評価額を、設立10年以内に獲得するのは並大抵のことではありません。

ですが、全世界には米国と中国、そしてインドを中心に1,000社以上のユニコーン企業が存在します。

ユニコーン企業になるための評価額1,100億円を達成するためには、今後世界や世の中を変えるような革新的技術、サービス等を開発するのが最も成功しやすく思われます。この点をふまえると、ECや商店のあり方はすでに極限まで便利に構築されているように見えるので、小売企業はユニコーン企業に成長しにくいポイントという印象を受けます。

しかし、海外ではEC事業をメインに扱う企業が出資を受けることで、ユニコーン企業として活躍するケースもあります。また見えないニーズを可視化することで、「ありそうでなかった」利便性を消費者に提供し、成功するケースもあります。日本の小売企業も、ユニコーン企業になることが不可能というわけではありません。

日本のユニコーン企業の特徴

日本の政府は、2023年までに20社のユニコーン企業を創出することを目標として掲げていました。

現在国内には、アプリやプラットフォームを開発・提供するテック系企業やバイオ系のユニコーン企業が存在しますが、20社という目標には到達していません。

とはいえ、評価額1,000億円突破間近、あるいはすでに突破した「ユニコーン企業予備軍」は国内でも着実に増えています。ニュースアプリやクラウド人事労務ソフト提供会社、AI関連企業や宇宙ベンチャーといった企業がユニコーン企業の予備軍として成長を続けています。

ユニコーン企業が日本に少ない理由

日本にユニコーン企業が少ない遠因として、日本企業の資金調達状況が挙げられます。

未上場の企業が評価額1,100億円以上とされるためには、出資による資金調達がほぼ不可欠といえます。

しかし、VCの盛んな米国と比較すると、日本のVC投資額は米国のわずか数%にしか到達していません。ハイリターンを狙うVCは、投資文化の根づいていない日本では積極的に行われることが少ないのが現状です。

海外では、VCが投資とともにコンサルティング等を投資先企業へ提供するケースもあり、未上場のベンチャー企業が成長しやすい土壌がある程度用意されています。

一方で、VC(ベンチャーキャピタル)の投資額が低い日本は、上場せずに多額の資金を調達するのが難しい環境といえます。

そのため、企業は資金調達をしたいと計画するならまず上場を目指します。上場してしまうとユニコーン企業と認定されるための条件の一つである「未上場」という要件を満たさなくなるため、ユニコーン企業にはなりません。「評価額10億ドル」、「設立10年以内」、「未上場」という条件から1つでも外れると、ユニコーン企業とはみなされなくなるからです。事実、フリマアプリを運営するメルカリはかつてユニコーン企業でしたが、2018年に上場したため、ユニコーンとみなされなくなっています。

日本にも、意欲的な新興企業、イノベーティブな事業者は決して少なくありません。ですが資金調達の難しさ、ベンチャー企業の成長しにくい日本の環境等が関係して、ユニコーンの条件を達成するまであと一歩及ばない状況になっていることが多いのです。

視点を移して同じアジア圏に目を向けると、ASEAN主要国でユニコーン企業の台頭が目立ちます。

特に、シンガポールは東南アジア諸国の中でも企業の成長が著しく、世界トップクラスのスピードでユニコーン企業を生み出し続けています。これは、シンガポール国内で投資が活発であり、産声をあげたばかりのベンチャー企業でも投資を受けやすいことが関係しています。

EC事業でユニコーン企業になるには

EC事業は、コロナ禍で急拡大を見せていることもあり、消費傾向のトレンドにのることでユニコーン企業やその予備軍入りを果たせる可能性もあります。

全世界的にステイホームが推奨され、買い物のあり方は激変しました。この状況がECビジネスを大きく飛躍させるかもしれません。

オンラインショッピングや、ワンマイルでの購買活動は全世界的に需要が伸びています。

さらに、この傾向は一過性ではなく、アフターコロナとなっても、人々はECやワンマイル消費の利便性を手放すことはなく、生活に溶け込んだ形でサービスを利用し続けるだろうと予想されています。

ECの利用状況分析が活路を拓く?

EC事業で飛躍的な成長を遂げて、投資家に高い価値をアピールする上で有用なのが、ECのユーザー利用状況を多角的に分析することです。

コロナ禍によってECの利用者層は拡大し、年齢を問わず広くサービスが使われるようになりました。

ですが、ターゲットの年齢やライフスタイルによって利用状況は異なり、またニーズも変わってきます。

EC事業がどのような層を対象としたものなのか、またユーザーはEC利用の際にどのような動線を辿って購買に至っているのか、カスタマーサービスの活用状況はどうなっているのか、といった膨大なデータを多様な視点から分析することで、隠れていた顧客の要望を見つけ出すことができるかもしれません。

ユニコーンになる方法の一つは、他社と差別化できる画期的な商品、サービスを生み出すことといっても過言ではありません。また、そのような先駆者のアイデアとは、コロンブスの卵のように些細だけれど他社がまだ気づいていない、小さくシンプルな物事から始まっていく可能性があります。

海外の動向から事業戦略のヒントを探る

企業成長には戦略が欠かせません。

そして、今の時代に合う効果的な戦略を立案する上で海外のユニコーン企業の例を見るのも良いアイデアです。

前述の通り、東南アジアでは、日本より一足先にユニコーン企業の多様化が進んでいます。

シンガポールやベトナム、タイ、インドネシア、マレーシアといった各国でユニコーン企業が生まれる土壌が整い、それに呼応する形で、キャッシュレス決済をはじめとしたフィンテック、医療系企業、EC関連だけでなく、教育系企業やゲーム関連事業等、あらゆる業種でユニコーン企業が誕生しています。

積極的なVC、海外の投資家によるアグレッシブな投資等、日本とは異なる状況の影響もありますが、各国の事例を見ることで大きな成長を目指す事業戦略のヒントが得られるはずです。

韓国

韓国も日本と同様、ユニコーン企業の創出を政府が積極的に後押ししている国です。

中小企業庁を「中小ベンチャー企業省」とあらため、公費、民間資金を合わせて過去最大規模の投資を実施、積極的にベンチャー企業の成長を推進しています。

こうした政策もあり、過去5年間で3倍に増加したといわれる韓国のユニコーン企業の中でも注目されているのが、「速さ」を特徴とするデリバリーサービスです。

独自の配送網を完備して魚介類を含む生鮮食品を、23時に注文して翌朝の7時到着するという超速サービスを提供しています。

夜帰宅した時に、明日の朝食べるものがなくても困らないこのサービスは、都市部を中心に人気となり、特に、子育て世帯に支持されています。

ダークストアや独自インフラを使ったワンマイルのスピーディな配送は、全世界に広がりつつありますが、韓国のこの事例は深夜〜朝という時間がポイントといえるでしょう。多忙な現代人の需要にうまくマッチしているサービスです。

中国

もともとユニコーン企業を数多く創出している中国ですが、現在は生鮮食品のEC事業が飛躍的に伸びています。

中国の生鮮食品ECは、食品ロスや物流コストが課題となっていましたが、倉庫を小型化して財務を軽くするアセットライト経営によって黒字化に成功した企業が現れ始め、コロナ禍におけるEC需要とあいまって今後の成長も期待されています。

中国政府が企業規制を強化したことで、海外の投資家は積極的な投資を控える行動も見られましたが、まだまだユニコーン企業を生み出していくパワーは残っているといえるでしょう。

インド

インドは人口が多く、昔ながらの個人商店も多いのが特徴です。

また、経済発展は途上であり、世界的なオンラインマーケットに出店するパワーのない企業も少なくありません。インドでは、そうした状況にマッチしたサービスを展開する企業が急成長を遂げています。

例えば、出店料無料で売れた品物にだけ手数料がかかるオンラインマーケットプレイスは、小規模な個人商店でも出店障壁が低く、好評を博しています。このマーケットプレイスを提供する企業では、インフルエンサーらがマージンをプラスして商品をリセールできるSNSの運用と合わせて、主に女性向けの商品を展開、利用が増えています。

ECに進出したい個人商店のニーズと、個人商店からもオンラインで買い物をしたい消費者のニーズをマッチさせたサービスです。

企業価値を上げる事業戦略

各国の事例からみえてくるのは、消費者の潜在的なニーズを掘り起こした企業が成功しているという傾向です。一見、進化し尽くして飽和状態と感じられるEC界も、カバーしきれていない消費者のニーズは必ずどこかにあります。

そしてそれは、購買行動やネットショッピングの利用方法といったデータを分析することで見えてくるケースもあるでしょう。

そこに焦点を当て、消費者がより新規性や利便性を感じるECを構築すれば大きく業界のシェアを獲得することも不可能ではありません。

今や誰もがECを利用するようになったからこそ「あったらいいな」、「こうだったらいいな」という潜在的なニーズは見落とされがちであり、消費者が見えない不満を募らせているケースもあります。これを詳細な購買行動データによって可視化することで、企業価値を上げていく事業戦略が構築できるのではないでしょうか。