OMOが業界を変える。アパレル企業が進めるビジネスモデル変革

国内でもあらゆる業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいますが、アパレル業界も例外ではありません。顧客の消費行動の変化に伴い、ビジネスモデルを変化させるブランドが増えています。

中でもオンラインとオフラインを併合してマーケティングするOMOは、リアル店舗とECサイト、モールなどに出店しているブランドにとって重要な考え方です。

この記事では、アパレル業界の現状とOMOの国内事例についてご紹介します。

アパレル業界に見るOMOの現状

アパレル業界でもOMOを導入するブランドは日々増えています。その背景には、やはりコロナ禍における休業や時短要請による売り上げ低下があります。 実はコロナ禍においてアパレルの需要は落ちていません。むしろコロナ騒動でリモートワークやおうち時間が増えたこともあり、アパレルの需要は高まっているのです。

引用: コロナ禍で変わる購買行動に向けた共同出店型ショールーミングストア キラリナ京王吉祥寺「INSEL STORE」提供開始 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000269.000011255.html

アパレルの需要が高いままリアル店舗が休業することになれば、必然的にECサイトの売り上げが伸びます。つまり顧客はECサイトなどWEB上で消費活動を行っており、その行動履歴はデータとして残っているのです。

顧客がリアル店舗とECサイトの両方を使うようになった今、アパレル業界もオフラインとオンラインの垣根を超えたOMO(Online Merges with Offline)を進めなければなりません。

マスからパーソナルへと細分化が進んでいる

アパレル業界では、大衆に向けて発信するマスから個へと発信するパーソナルへと細分化が進んでいます。そしてこのマスからパーソナルへの変化は、アパレル業界に限ったことではありません。音楽業界ではCDが売れなくなり、多くの企業がTVCMよりもWeb広告を重視する時代となりました。

マスからパーソナルへと進んだ要因は、やはりネットの浸透が大きいでしょう。スマホ社会となった今、消費者は24時間ネットに繋がっています。スマホで情報収集・発信をすることで消費者のニーズも多様化しており、大衆に向けた戦略では大きな効果が期待できません。

SNSではインフルエンサー着用アイテムが売れ、店頭では「YouTuber紹介アイテム!」と大々的にPOPが貼りだされる時代です。それに伴い、販売者側にも大きな変化が訪れています。

そこで今注目されているのがOMOです。オンラインとオフラインを併合することで、顧客体験の向上やビジネスでの成長を目指していくことが必要なのです。

“個客”へのリーチが重視されている

顧客のニーズが複雑化した今、企業は大衆ではなく個人を重視した“個客”へのリーチが求められています。ターゲットを年齢層や性別で分けるのではなく、1人1人のニーズを把握し、それに応える商品が求められているのです。

アパレルショップが軒を連ねるショッピングモールも、館(やかた)をプロデュースするという考えから「個客へ提案する」というスタイルへ進化しています。

モノが溢れる昨今では、消費者にとって購買の意思決定すらストレスになっています。既製品である限り、個人のニーズを完璧に満たせるものはありません。そこで今後は、個人のニーズを詰め込んだオーダーメードの商品をゼロから作る取り組みが求められているのです。

不可能と思われがちですが、AIやIoTといった技術を使うことで活路を見出だす企業が増えています。今後アパレル企業でも、商材のパーソナライゼーションが求められるでしょう。

小規模アパレルもD2Cでの参入が進む

小規模アパレルでは、D2Cによる業界参入が進んでいます。大衆向けではないため「売れない」と排除されたニーズに焦点を当てることで、個客のニーズを満たしているのです。

例えばD2Cブランドである「コヒナ(COHINA)」は、身長155㎝以下の女性向け商品を販売しています。そして2021年4月、4カ月限定で試着専用店舗である「COHINA Limited Fitting Store」を出店しました。流通した型紙に合致しない小柄な女性をターゲットとすることで、小規模アパレルとして実績を上げています。

コヒナのポイントは、リアル店舗が「試着専用店舗」である点です。リアル店舗を「試着のみ」とすることで、スタッフはお客とのコミュニケーションに集中できます。そして気に入った商品はその場でECサイトから購入できるため、ショールーミング化するリスクが高くありません。

店舗では「接客を受けたい」「試着をしてみたい」というリアル店舗特有のニーズを満たして購入はECサイトにすることで顧客体験を向上させ、EC全体の売り上げは前年同月比1.8倍と成果を上げています。

https://cohina.net/

デジタルシフトを進めるアパレル企業

デジタルシフトを進めOMOを進めている企業として、以下の3社の事例を紹介します。

  • ・オンワード
  • ・アダストリア
  • ・ANAP

オンワードは“OMO店舗”を展開

オンワードホールディングスの傘下「オンワード樫山」は、2021年4月にリアル店舗とECのメリットを融合した新業態店「オンワード・クローゼット・ストア」の展開を開始。同店舗をオンワード樫山は「OMO店舗」と呼び、強力にOMO戦略を進めています。

同店舗ではOMO戦略として、以下の3つの取り組みがあります。

・パーソナルスタイリング

リアル店舗とオンラインの両方で、指名したスタッフから商品詳細を聞いたりアドバイスを受けたりできる

・スタイリングライブ

ライブ動画(毎週配信)で紹介した商品をECで購入したり、店頭での試着を予約できたりする

・カスタマイズ

店頭タブレットで身長を入力し、オンライン上で自身のフィッティングイメージを確認する

オンワード・クローゼット・ストアはブランドの世界観を撤去し、消費者のニーズに合わせた店舗です。そのため傘下のブランドを融合して陳列しており、衣料品以外にもビューティーアイテムや食品まで取り扱います。

オンワードは2030年に向けた新ビジョンの1つに、主力のアパレル事業でOMOを強力に推進することを掲げています。そして在庫の一元化やオウンドメディア・SNS・ライブコマースといった手法で、顧客と双方向の関係性を作ることを明言しました。上記の取り組みは、そのOMO戦略の1つとなります。

※参照:新業態となるOMO 型店舗「ONWARD CROSSET STORE」、埼玉・愛知・千葉にオープン

アダストリアは情緒的なOMO店舗を出店

カジュアル衣料品等SPAブランドを展開するアダストリアは、自社ECモール「ドットエスティ(.ST)」とOMOを融合した「ドットエスティストア」を千葉・船橋にオープンしました。

OMO戦略として、リアル店舗に以下のような施策を導入しています。

・大型モニターの設置

売り場の真ん中に大型モニター一体型の什器を設置。自社ECサイトで支持率の高い販売員の着こなしをモニター表示して、その横に実際のアイテムを陳列する。

・来店ポイントの提供

ECモールの会員バーコードを読み取るスキャナを設置。読み取ると来店ポイントが付与され、店舗側は購入履歴を把握できる。顧客のデータはEC上のパーソナライズに活かす。

本格的にOMOに取り組んでいますが、アダストリアはデータを「手段の1つに過ぎない」と考えています。スタッフとの会話のきっかけに活用することで、リアル店舗ではさらに情緒的な顧客体験の提供を実現しているのです。

楽に楽しく“本当に欲しい”が見つかるアダストリア初ブランドMIXのOMO型店舗『ドットエスティ ららぽーとTOKYO-BAY店』が本日オープン! https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001278.000001304.html

EC先進企業ANAPは“逆OMO”で再出店

1992年に創業したANAPは安くてかわいい“安カワ”が支持され、90~00年代にギャルファッションをけん引したファストファッションブランドです。

ピーク時にはショッピングセンターなど100店舗ほどの出店を行うANAPでしたが、08年にH&M、09年にフォーエバー21といったファストファッションが進出したことでECサイト強化にシフトしました。

今では売上の6割がECサイトという「ネット通販先進企業」として知られていますが、2019年頃から再びリアル店舗へと舵を切りました。これにより、ANAPはリアル店舗→OMO強化→リアル店舗とユニークな進化を遂げています。

その背景には、OMOの強化によってリアル店舗とECサイトの「シナジー効果」の発見が影響しています。

ANAPでは、公式通販サイト「ANAPオンラインストア」とリアル店舗の売り上げと顧客情報を統合しました。その結果、公式ECサイトの売り上げは8割がリピーター、リアル店舗は7割が新規顧客であることを発見します。リアル店舗のほうがCPA効率が良いことがわかり、再出店を決めたのです。リアル店舗のリピーター率が3割と低いことは逆に“チャンス”と考え、店舗ではECへの誘導も行っています。

店舗がないエリアはネット通販も伸びないと言い、今後もリアルとECという2つを合算した戦略を打ち出していく方針です。

ビジネスモデルから変革することの重要性

アパレル業界でもOMOを始め、さまざまなDXが進んでいます。より個客それぞれのニーズを満たし顧客体験を向上させるにも、ビジネスモデルの再構築が急務となっているのです。

OMOは企業全体の事業戦略である

いよいよアパレル業界にも、デジタル化が本格的に求められる時代となりました。前述したオンワードやアダストリア、ANAPのように、OMOを戦略の1つと考えるのではなく、企業全体の戦略とすることが求められています。

顧客がオンラインとオフラインを自由に行き来して消費行動を行う以上、企業はそれに合わせなければいけません。

リアル店舗とECサイトのデータを統合すれば、今まで気づかなかった顧客行動を発見できるでしょう。そしてデータを元に顧客のニーズを発見し、“個客”に寄り添ったマーケティングを行うことで大きな成長が期待できます。

業界全体のIT化と意識改革へ

アパレル業界は着こなしのセンスや接客では属人的なスキルが重視され、デジタル化が進んでいないといわれる業界の1つです。しかしコロナ禍でリアル店舗が休業を迫られた結果ECサイトが活発になり、本格的なIT化が必要となりました。

OMOを始め、アパレル業界でもITを念頭に置いたマーケティングが必須です。言い換えれば、コロナ禍で撤退するブランドも現れる中、個客に寄り添ったDXに取り組まない企業は競合に淘汰されてしまうでしょう。

アフターコロナを見据え、ブランド存続のために、そして顧客体験の向上のためにもOMOを始めDXの導入を始めてみてはいかがでしょうか。