小売・EC企業が取るべき地球温暖化対策とサスティナビリティ戦略

サスティナビリティ――最近注目されることの多いこのキーワードは、「持続可能な」と訳されることの多い、ある意味では不思議な言葉です。

では、このサスティナビリティが指し示すものとはどんなものなのでしょうか。

そもそもサスティナビリティとは?

実は社会学の観点から言えば、サスティナビリティ、持続可能な社会開発、という言葉がキーワードとして出てくるのは、ここ30年の間で2回目のことです。

2回のうちの一つは、SDGsに代表される今現在求められているアクション。SDGs自体が、Sustainable Development Goalsの略なのですから、サスティナブルという言葉は当然のように使われることになります。

もう一つは、1990年代後半から2000年代の前半にかけて、ハートビル法やバリアフリー法、新バリアフリー法が制定されていく流れの中で、すべての人々がアクセス・利用しやすい環境をユーザビリティの高い環境として定義し、これらをサスティナブルに開発・発展していこう、という概念で語られていました。どちらかというと日本では、元々はユーザビリティなどのようなUXなどに関わる観点から、サスティナビリティという言葉は使われていました。

そして、この流れを受けるように、2004年の障害者基本法の改正が実施された他、2004年発行のJIS-X8341に代表される、Webアクセシビリティガイドラインなど、ユニバーサルなユーザビリティを保持し、持続可能な社会を開発していくための基礎的な流れが出来上がりました。

これらは、今のサスティナビリティの流れとは、何がどのように違うのでしょうか?

実は根本的に捉えている範囲が違うのです。

2000年代前半のサスティナビリティとの考え方の違いとは?

そもそも、今、なぜサスティナビリティなのでしょうか。

その理由は、2015年に定義され、 2030年までに国連加盟国が達成するべき目標として採択された、SDGs – 持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)の注目度が様々な意味で上がってきているから、と言えるでしょう。

進行に伴い注目度が向上し、少しずつ生活、経済レベルに落ちてきていること、学校などでも授業の一環に取り入れられつつあることなど、知る機会がまず大きく増えています。

それ以外にも、SDGsのゴールの一つを達成するために、場合によっては制裁金やペナルティ、あるいは新税の導入などが検討されるなど、その中の目標を達成するために具体的な方策が検討され、それらがニュースとして取り上げられることも多くなってきました。

SDGsにて定義されている大きなゴールは17項目あり、シンプルに言えば生活環境の安全を担保するためのものから、正当な権利をすべての人々が得ることを目的としたもの、その他に地球環境を保全するための具体的な行動を要求するものなど、幅の広い目標を掲げています。

2000年代前半のサスティナビリティが、ユニバーサルデザインなどの「普遍的に使いやすい環境を作ろう」という、比較的ユーザビリティやユーザエクスペリエンスによった文脈で語られていた事が多かったのとは対照的に、今現在のサスティナビリティは、それよりももっと深刻であり、もっと切実な課題として語られています。

SDGsの大きな課題「地球温暖化」

SDGsの中で定義されているゴールはどれも重要かつ大きな課題ですが、そのうち経済活動とは切っても切れない関係で、そして切実かつ近々の課題となっている問題の一つが地球温暖化でしょう。

地球温暖化の流れは既に止める事はできず、ここ100年の間に中の平均気温は0.72度上がりました(※1)。地球は間もなく小規模な氷河期に入るという予測もありますが、ここ数年の気候変動を見る限り、少なくともそれは希望的観測に過ぎないでしょう。残念なことに、確実に大気温度は上昇しています。この結果、日本国内でもその影響は様々な形で現れていますし、アメリカなどでも森林火災の多発など、平均気温上昇による影響はあちこちに現れています。

※1 引用:気象庁「世界の年平均気温」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_wld.html

太平洋の島しょ国であるツバルが、海面の上昇によって沈みつつある、という報道が記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。

これらの地球温暖化の原因物質とされているのは、人類の経済活動に寄って排出される二酸化炭素です。地球温暖化による海水温度の上昇により、二酸化炭素以上の温室効果をもたらすメタンハイドレードの融解によるメタンガスの排出、なども時折話題には上がりますが、まず今現在、温室効果ガスの代表は、二酸化炭素です。

この二酸化炭素の排出をいかにして減らしていくのか、ということが今非常に大きなサスティナビリティの文脈の一つとして語られています。

この文脈の中には京都議定書による炭素排出の削減目標が定められていたことなど、今までは個別の、しかし、大きな問題として提起されていた人類共通の課題が、ここに来て一つにしてまとまり、解決に向かって動き出している、といえます。これらを効率よく社会全体に知らしめる、という形で少なくともSDGsは大きな意味を持っていると考えます。

二酸化炭素の排出の削減をどう実現するか

実はこの二酸化炭素の削減という大きな問題、今はまだ対岸の火事のように見えてはいても、そう遠くない将来に大きな課題となる可能性があります。

在来より、温暖化関連の議論の中では、炭素税の導入などが議論されています。炭素の排出に対して、税金を設定し、炭素自体の排出をできる限り抑制しよう、とするものです。ガソリンの価格が高くなれば自動車はハイブリッド車やEVが主流になるでしょうし、石油を原料とした火力発電のコストが自然発電のコストを上回れば、自然発電が選ばれるようになるでしょう。

炭素税はこのような考え方で一部原油価格の税金に組み込まれている他、政策提言として炭素税税額の増額や新税としての試算までされています。今はまだ、さほど表だっていない状況ですが、刻々とそのX-Dayは近づきつつあります。海外では既に、炭素排出の削減目標を達成できない企業に対して、ペナルティが科される例も出てきています。世界的に見てもまだその業種は自動車産業など一部の産業に限定されていますが、それがすべての業種に広がる日は、そう遠くはないでしょう。

そしてそのための概念も既に整備されつつあります。

EV車の販売にシフトしつつあるだとか、2030年には新車としてのピュアガソリン車の販売を停止するなどといったダイナミックに変化していくような要素が当然のように目がつき、これにより一見削減は実現されるように見えますが、トータルで見た場合にはそれは削減には至っていません。

現在の日本の炭素排出の多くは発電所などのパワープラント関連や交通・移動に関わるものから排出されるものが多いため、そういった意味では、すべての人、すべての企業が排出削減に取り組む必要性があります。

では、まず何から始めるべきなのか――それは個人・企業などのレベルを問わず、実際には省エネであったりします。日本国内の二酸化炭素排出の大半を占めるのがパワープラントである以上、ガソリン・電力を問わずエネルギー消費を抑えることが何よりも効果があります。

炭素税が導入されるのであれば、同時に企業への省エネ機器購入補助金がはじまると考えられますし、在来の機器よりも省エネ性能を向上させた新たな機器の導入も加速せざるを得なくなるでしょう。あるいはグリーン電力の導入や物流の鉄道へのシフトなど、事業プロセスの中の何かをシフトする必要性も生じるでしょう。

小売、ECで何が必要になるのか

ではこれが、小売のECであれば、何が必要になるのでしょうか?

自動車業界のように製造する製品自体が二酸化炭素を発生するというケースはおそらく少なく、むしろ、事業そのもので発生する二酸化炭素をいかに削減するのかが求められるでしょう。

具体的には以下のアプローチが考えられます。

  • ・製品自体の製造に関わる段階での二酸化炭素の発生抑制
  • ・製品自体の仕入れ数の最適化による、関連する二酸化炭素の削減
  • ・グリーン電力の導入による電気のカーボンオフセット
  • ・事務機器などの省エネ対応製品の導入による削減
  • ・配達効率の向上による、配送段階での二酸化炭素の排出抑制

などです。

これらのアプローチに対して発生しうる課題も当然あり、その一方で掘り下げて考えるには多数のハードルが存在し、実現までには時間がかかるケースもあります。

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