変わる小売業界のギフト戦略

2020年、新型コロナウイルスが人々の消費行動を一変させました。チャネルは実店舗からオンラインに軸足が移り、そこで購入される商品にも大きな変化が見られました。そしてその現象は、「贈り物」というカテゴリにもそのまま当てはまります。

コロナ禍のもとで初めて迎えるクリスマス、そして年末の「贈り物シーズン」、ギフト需要を取り込んでいくには、これら消費者の購買行動や心理の変化をうまく汲み取った戦略が必須となります。

本稿では、コロナ禍において変化が求められる小売業界のギフト戦略について考察していきます。

模索が続く小売業界のギフト戦略

これまで百貨店などに出向いて商品を吟味する、という人も多かったギフト市場ですが、2020年は新型コロナウイルスの影響を受け、これまで以上に通販ギフトが重要視されている傾向が伺えます。

「おとりよせネット」を運営するアイランド株式の調査「2020年のお歳暮に関するアンケート」によれば、今年のお歳暮を通販で贈ると答えた消費者は65%にものぼる結果となっています。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000001653.html

【調査報告】2020年のお歳暮、65%が「通販で送る」~直接配送できるから(62%)、帰省の代わりの贈り物として(15%)~

そして、通販の中でも、今年はECで贈り物を購入しようという消費者が増えているのです。これは、ギフト市場以外の小売業界の動向から考えても自然な流れと言えそうです。

そしてもう一点、顕著な傾向として見て取れることがあります。

国内のギフト市場はここ数年10兆円から11兆円といった規模で推移していますが、その内訳としては、いわゆる「お歳暮」など昔からの慣例で行うフォーマルな贈り物より、母の日父の日、敬老の日や、ごく親しい友人への誕生日プレゼントや結婚祝いなど、よりカジュアルなギフトが市場を牽引している、ということです。

この事象は、緊急事態宣言や外出自粛で在宅時間が増え、相対的に業務上の社交時間が減ったため、人々に「これまでのような形式ばった贈り物は必要ないのではないか」という機運が生まれたことによると考えられ、これもまたコロナ禍の間接的な影響である、と言えるでしょう。

ギフトを贈るオケージョンの変化だけでなく、贈る商品にもコロナ禍の影響を垣間見ることができます。

カジュアルなオケージョンでは、より親しい間柄で贈り物をする場合が多いせいか、相手の嗜好をよく理解していないと選択が難しい食品ギフトや、あるいは2020年を象徴するように、「在宅時間を豊にするもの」という観点から、旅の気分を感じさせる特定地域の特産品を選ぶ人が増加しているのです。

このようなギフト市場における顕著な変化は、一過性のものではなく、少なくとも新型コロナウイルスの影響があるうちは続くものと思われます。あるいは、人々の贈り物における新たな慣習として定着する可能性もあるでしょう。

したがって、今、ギフト需要を何かしらの形で自社の売上に取り込みたい企業は、これらの傾向を踏まえた上で戦略を練らなくてはなりません。

デジタルギフトが主流になる?

上述しましたが、カジュアルギフト需要の高まりも相まって、今後、贈り物はオンラインで注文と送り先を指定できるデジタルギフトが主流になることが予想されます。

特に、ギフトを贈りたい相手自宅の住所を知らなくても、LINEやFacebookなどSNSで繋がってさえいれば、商品の宅配先を入力するフォームのURLをSNSで送付し、相手に直接入力してもらえるソーシャルギフトは利便性が高く、今後ますます需要が高まっていくでしょう。

相手に住所を聞かなくていい、心理的ハードルの低さは、贈り物をより気軽で身近なものにするため、利用者が増えれば増えるほど、市場がさらに活性化することにも繋がります。

いわゆる従来型のギフト市場を牽引してきた大手企業も、今年はデジタルギフトへの注力が目立っています。

たとえば、伊藤忠食品では、「凍眠市場」という冷凍食品ブランドの商品をデジタルギフトとして贈ることができる施策を打ち出しています。 こちらも贈りたい相手にURLを送付し、デジタルギフトを受け取った人が商品と宅配先住所を入力する仕組みになっています。

実際、デジタルギフトは消費者に求められている、という側面もあります。矢野経済研究所の調査によると、デジタルギフト市場は2023年までに毎年10〜20%の伸長率で成長し、2,492億円まで拡大すると見られています。また、企業のプレゼントキャンペーンにおいては、約98%の消費者が「商品券・デジタルギフト」と回答しています。

一方、ギフト市場を狙う企業視点でも、デジタルギフトは、オペレーションの簡略化、顧客データの収集や効果測定が容易になるなど様々なメリットがあるため、今後のギフト市場戦略にデジタルギフトは欠かせないと言えそうです。

ギフト専用ECの台頭

贈り物をECで購入するという行動が一般化するのに呼応するように、「ギフト専用EC」も著しい成長を見せています。

贈り物に特化したEC、「ギフトショップTANP」を運営するGraciaは、2020年、11億円の資金調達を公表しており、2020年6月時点で、売上成長率は前年同月比で3倍となっていました。

実は、一般的なECカートシステムなどのUIでは、ラッピングや名入れ、メッセージ添付など、ギフトならではの細やかな要望に応えることはできません。これら流通加工部分はシステムへの後付けが難しく、加えて業務を外部委託するにしても、ギフト需要のように少量多品種への対応は不可能であることも多いため、まだまだプレイヤーが少ない、という側面があります。Graciaは、自社の強みをその部分に特化することで急成長しているのです。

裏を返せば、たとえば既存の自社ECを持つ小売企業が、そのECをそのままギフト需要に対応させることは技術的にもコスト的にもハードルが高いということです。

時期が限定されがちなギフト需要に常時対応するためのシステム開発を行うことはコスト的に見合わない投資になる一方で、市場の大きさ的には無視もできない、というのが課題を難しくしているポイントでしょう。

ギフト需要を効率的に取り込むためには、TANPのような特化型ECや、ギフト機能がしっかり盛り込まれたECシステムの導入を検討するのが近道の一つだといえそうです。

手渡しが難しい「今」ならではのギフト戦略

デジタルギフト、ソーシャルギフトが一般化するにしたがって、消費者はより高い利便性を求めるようになるのは目に見えています。たとえば、Amazonばりに宅配の融通が自由に利くことは、今後ますます重要度が増すでしょう。

そこに目をつけた企業は、様々な形で利便性向上を目論んでいます。

たとえば、インテリアショップ「Francfranc」では、国内で初めて、食品ではない商品をウーバーイーツで30分以内宅配するサービスの提供を開始しました。実施するのは都内3店舗限定なので、配達できるエリアは限られますが、ユーザーは、ウーバーイーツを利用する感覚で、店舗のECで商品を購入し、その後ウーバーイーツの手によって30分以内で商品の宅配を完了できます。

これは、ギフトを買いにいく時間がない、あるいは、ギフトを贈った相手の感想をすぐに聞きたいといった贈り主のインサイトをついた施策だと言えます。

もうひとつ、面白い施策事例があります。

お歳暮商戦を繰り広げるハム業界では、再配達が必要のないポストに投函できるギフト商品の開発が進んでいます。日本ハムでは「グルメレター」、伊藤ハムでは「ポストインギフト」がそれにあたり、通常、低温保存商品が多い中で、ビーフジャーキーなど常温品で、かつポストに投函しやすい商品を、価格を抑えてギフト化しているのです。

このように、デジタルとは違った形でも、コロナ禍における人々のインサイトをついた商品開発と物流の活用の仕方によってギフト需要を取り込むやり方には、まだまだ鉱脈が眠っていると言えそうです。