休業明け「選ばれる店舗」になるために必要な6つの対策

5月下旬、緊急事態宣言は首都圏と北海道を除く都府県で解除され、状況次第で残りの自治体についても月末までの解除の可能性が示唆されています。

この3ヶ月、未曾有の事態に直面することになった小売業界は、消費者の外出自粛に伴うEC需要の爆発的な増加と、同時に実店舗の休業による大きな売上の低下を経験しました。

そして緊急事態宣言が解除された時、そこに待っているのは数ヶ月前の日常ではありません。新型コロナウイルスは、私たちに「新たな日常」という副産物をもたらしました。

生活様式の変化に伴い人々の消費行動も大きく変わることが予想される中、休業明けの店舗が消費者から選ばれるためには、どのような対策を取っていくべきなのでしょうか。

新しい生活様式がもたらすもの

5月4日、厚生労働省は新型コロナウイルス感染症専門家会議の提言を踏まえた「新しい生活様式」の実践例を公表しました。

出典:厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_newlifestyle.html

これは、ウイルスの感染対策に関わる様々な具体的なアクションを取りまとめたものですが、その中では「日常生活の各場面別の生活様式」や「働き方の新しいスタイル」として、通販の利用やキャッシュレスの活用、テレワークの推奨など、小売業にも直接的な影響を及ぼす行動についても提言されています。

この提言自体はなんら強制力は持たないものの、今回の新型コロナウイルス禍は、人々の意識を劇的に変えたため、実際にこのガイドラインに近い生活スタイルが確立される可能性は大いにあると考えられます。

特に、日常的な買い物において、今後ECの需要やキャッシュレス決済手段の需要はますます高まるでしょう。

もう少し視野を広げれば、都市部に人口が集中していることへのリスク回避の観点から、住環境や労働環境は都市部集中型から地方分散型へ緩やかに移行、加えてリモートワーク導入率の増加加速といったことが考えられます。

多くの小売業に今求められているのは、このような消費者の生活スタイルの変化を織り込んだ上で、休業明けの店舗 (だけでなく、事業そのもの)をどのように運営していくかという明確なビジョンです。

「新しい生活様式」が日常となった世界で、消費者に選ばれる店舗になるための対策とは。以下で、ポイントとなる対策を、短期的、中期的、長期的のフェーズに分けて見ていきましょう。

短期的な対策

1:店舗における衛生管理の徹底

今回の騒動を経て、消費者の感染症リテラシーは飛躍的に高まったと考えられます。それに伴い、「衛生対策」も、店舗の選択基準の一つに加わることになるでしょう。したがって、今すぐに対策できる項目として、店内の衛生管理を徹底し、感染リスクを極限まで低減するオペレーションを作り上げておくことが必要です。

店頭での入店者の手指の消毒(大型店舗であればショッピングカートやバスケット

なども)はもちろん、ソーシャルディスタンシングに留意した店内導線、混雑した場合の入場形態、スタッフのマスク着用など、非テクノロジーな対応が可能な部分は、今すぐにでもシミュレーションを行い、休業明けすぐにスムーズな導入とオペレーションが可能な状態を作っておくべきでしょう。

2:キャッシュレス決済手段の導入

消費者の衛生意識の高まりに伴い、現金になるべく触れずに決済できる手段が、今後は必要不可欠になります。テクノロジーを用いる対策の中でも、キャッシュレス決済手段の導入については、サードパーティのサービスを活用することで比較的短期に実装が可能です。

もちろん、大きなDXの絵を描いている場合、決済手段のラインナップを増やしたり、それらを基幹システムとの連携など、もっと大掛かりな開発が必要になりますが、まずはキャッシュレス決済化だけでも実装し、段階的にシステムを拡張していけるのが理想的と言えるでしょう。

3:休業中から行っておく顧客との関係作り

実店舗が休業中であるうちに、(できれば1ヶ月以上前から)やっておきたかったのは、通常業務が行えない販売スタッフの手によって、SNSなどをフル活用した顧客との「新たな」関係づくりです。

クオリティ自体は低くても、スタッフの人間味が滲み出る手作りのコンテンツによるコミュニケーションは、この非常事態だからこそ行えるものでしたし、それを発信し続けることによって、顧客の中に新たなエンゲージを生み出すことが可能だったはずです。

例えば、ある飲食店のシェフなどは、普段は絶対に公開しない自身のレシピを家庭で再現できるようアレンジし、それらを積極的にSNSで発信することで、営業していないにも関わらず、店舗のブランドを大きく引き上げました。そしてこの施策は、新規顧客への認知獲得にも大いに貢献したことは想像に難くありません。

中期的な対策

4:EC強化

今後の小売業界について一つだけ確かなのは、ECが弱い企業の未来は明るくない、ということです。冒頭にも述べたとおり、今後の生活様式は、日常的な買い物については極力ECを利用する流れになるからです。

ECをどう強化していくべきかについては、新型コロナウイルス禍以前までの準備がどの程度進んでいたかにもよります。これまでオンラインによる販売チャネルを全く持っていなかった企業であれば、何よりもまず、何かしらのオンラインチャネルを手段として持つ必要があるでしょう。

そして、多くの企業が当てはまるのが、在庫および顧客の管理を実店舗とECで一元化するという対策です。新型コロナウイルス禍に巻き込まれる以前から、オムニチャネル化についてはその重要性が散々説かれてきましたが、それを実装できている企業となると、実はそこまで多くないのが現状です。

しかし、新しい生活様式に馴染んだ消費者は、ECだけに購買の軸足を置くわけでなく、その時々の状況に応じてECと実店舗を自由に使い分けるでしょう。その時に、ECと実店舗間で在庫や顧客の管理方法がバラバラだと、一貫したサービスを提供できず、顧客に不便さを感じさせてしまいます。これからの時代において、その悪い購買体験は致命的となります。

5:店舗人材にEC運用スキルをインストール

ECの強化は急務ですが、特に自社ECにおける在庫・顧客管理の一元化などのシステム開発となると、どれだけ急いでも最低でも半年〜1年、規模によってはそれ以上の時間を要するプロジェクトになってきます。

一方、ECはローンチすれば勝手に動いてくれるわけではなく、運用人材のリソース不足がどの企業でも顕在化しています。

これらを統合して考えると、EC強化と同時にスタートしておかなければならないのが、EC運用人材の強化です。外部からの採用活動ももちろんその一環になりますが、今の時期だからこそ考えたいのが、これまで実店舗に関わってきた人材を、休業中の期間まで利用して、EC運用が行える人材へスキルアップさせる、という方法です。

これは、今後の小売企業にとってどのチャネルでモノが売れたということよりも、チャネルを自由に選ぶ顧客の購買体験を優先して考えればごくごく自然な流れです。今、この時期だからこそ、それに着手することで、組織構造自体がオムニチャネル化を果たし、さらにはその先に見据えたい本質的なOMOを実現できる小売企業への足がかりとなる可能性もあるでしょう。

もちろん、これは企業規模が大きくなればなるほど難易度が跳ね上がっていき、場合によっては長期的なプロジェクトとして捉えるべきかもしれません。

長期的な対策

6:本格的なOMOの実現に向けたDX

今後、長期的な視点で選ばれる店舗になる、という意味では、上記項目で触れた、「在庫・顧客管理をECと実店舗で統合する」というのは、それが完了して初めて、真の対策に向けた準備が整った状態となる、と言えます。システムがあるだけで顧客に提供する価値が変わらなければ、そのシステム投資は無意味だからです。

アフターコロナの世界で選ばれる店舗となるには、本格的なOMO(Online Merges with Offline)の実現を目指さなくてはなりません。

これは、ごくごく簡単に言えば、IoT/AIとセンサーデバイスを活用し、リアル店舗も含めて全てのチャネルが常時オンラインに接続した状態を構築し、そこから得られる全ての顧客行動データに基づいて、自社にしか出せない価値ある購買体験を顧客に提供する、ということになります。

ここで言う「価値ある購買体験」とは、「何が何でも店舗に行きたくなる理由」と言い換えてもいいかもしれません。

ECチャネルももちろん存在するけれども、実店舗には“わざわざ”行く価値がある。しかも、それは自社にしか出せないものである必要がある。その状態生み出すために、テクノロジーを駆使する。これこそがOMOの本質です。

何が他社にはない価値になるか、それは企業の事情や状態によって全く異なってきます。したがって、OMOに「これが正解である」という形はありませんし、中国の事例などをそのまま当てはめてもビジネスとして成立させることは難しいでしょう。

顧客の小さなペインポイントを全て解決する、という方向性が正解な場合もあれば、他では絶対に味わえない、リッチなエンターテインメント体験がハマる場合もあります。あるいは、オートメーション化できる業務は全てテクノロジーに預け、人的リソースは顧客とのコミュニティを形成することに100%使い、体温を感じさせるとことんウェットなコミュニケーションを売りにする、という方法もあるでしょう。

自社において、これからの時代の顧客に提供できる価値は何か。それは、今一度事業を見つめ直し、アセットを棚卸しすることから始める必要があるでしょう。その中で、今後生き残るための提供価値を定め、それを実現する手法としてテクノロジーの導入を行うことこそが、真のDX(デジタルトランスフォーメーション)なのです。

すべての対策が、一斉にスタートを切れるのが理想

誤解していただきたくないのは、本稿で挙げた“対策”は、短期的なものから順番に着手し、完了したら次に移る、という類のものではない、ということです。

DXは、長期にわたる綿密な計画と段階的な実行が必要な難易度の高いプロジェクトです。したがって、これらの“対策”は、極力、全て一斉にスタートを切れることが望ましいでしょう。