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RETAIL TREND:越境EC越境ECが
上手くいかない「本当の理由」

越境ECがバズワードだったのが2016年から2017年にかけて。スマホの普及に加えて中国人による爆買ブームに端を発し、海外進出の足がかりとして注目されたのが「越境EC」でした。あれから2年あまりの歳月が流れ、越境ECを取り巻く状況は現在どうなっているのでしょうか?

世界の市場規模だけで見れば、越境ECは着実に伸びています。しかしながら、ここ日本に限って言えば、海外進出を狙って計画されていたはずの越境ECが凍結、あるいは計画自体白紙に戻されているケースも少なくありません。

なぜ、そのようなことになったのでしょうか?

クリアしなければならない4つのハードル

越境ECを構築するにあたり、クリアしなくてはいけない以下の4つの課題があります。

実は、この4つをクリアすることはかなりハードルが高く、越境EC実現のボトルネックになっているのです。

以下で、それぞれの課題について掘り下げていきます。

上手くいかない理由1. 通貨問題

日本から発信するECサイトの国外市場に関して、アメリカのみやユーロ圏内のみ、といったケースは少なく、多くの場合は中国を中心に韓国やベトナムなどのアジア圏をターゲットにしています。

どこに向けて発信するにせよ、ユーロ圏内以外すべての国で通貨単位が違うため、ECサイトを運営するためにはそれらを統合して、日々変動する為替を通して価格を管理する仕組みを構築せねばなりません。

当然、発信したい国が増えれば増えるほど、そのためのシステムは複雑なものになっていきますので、相応のイニシャルコストと開発期間が必要になってきます。

国ごとに為替単位と相場が違うこと自体はまったくマイナーな話でもなんでもないはずなのですが、何故かこの部分が見落とされたまま話を進めようとしているケースが、意外と多いのです。

上手くいかない理由2. 言語問題

こちらも通貨の問題と同様です。越境ECについてご相談をいただいた時点で、何言語に対応するべきなのか、そもそも考慮されていないというパターンが数多くあります。

発信する国によっては、アルファベットだけでは対応できませんから文字コードを変えなくてはなりません。例えば韓国であればハングル文字、タイであればタイ文字の使用が必要ですし、漢字を使う中国であっても発信先の地域によってて繁体字・簡体字の違いを考慮しなければなりません。

こちらも通貨同様、細かく要件を定義した上でフロントシステムに反映しなくてはなりませんので、それなりのコストと時間を要します。

上手くいかない理由3. 税制・商習慣問題

次に考えなくてはならないのが、ECを展開したい国における税制度を含めた商習慣についてです。

当然、各国ごとに税制度や商習慣は日本と違います。細かい話ではレシートの出し方や、関税を嫌う顧客からの請求書の金額表記に対する要望など、事前にリサーチし、対応を考えておくべき項目は多岐に渡ります。

にも関わらず、日本の企業が日本の会計制度をもって海外進出した際に、ターゲットとする国のECと日本の会計制度をどう連動させるのか、という考慮が事前になされていないケースが非常に多く見られます。

また、日本と海外では消費者が好むウェブデザインのテイストも違いますので、ブランドが保ちたいテイストとのバランスを見ながら調整しないと、まったく売れないサイトになってしまう可能性もあります。

上手くいかない理由4. 運営体制の問題

ここまでの①〜③の課題についてまとめると、根本的なところでのリサーチ不足という問題が浮かび上がってきます。これは、主に「越境ECを立ち上げなさい」という指示が、一つの事業部に丸ごと投げられていることに起因するケースが多いためでしょう。

リサーチする項目はここに挙げた以外でも、越境ECのライバルにはどういった企業が存在しているのかや個人情報の扱い方など多岐に渡ります。それは、仮にリサーチをアウトソーシングしたとしても、現地の感覚がない人間が行った表面上のデータだけをまとめたリサーチでは絶対に事足りないのです。

そして、リサーチの次に起きるのが運営の体制を最適に構築できるかどうかという問題です。まずありがちなのは、商品説明を対応言語で作成や問い合わせ対応はどの部署の誰がやるのか?その人材は現状社内にいるのか?という言語の問題。次に、在庫管理と物流といった実際に商品を動かす部分について、やはり事前に考えきれていない、もしくはそこについてどうするつもりかを聞かれて初めて気づくというケースが多いのが実情です。そもそも現地でのコネクションがなかったり、海外配送における信頼性の高いFedExではどうしてもコストが割高になるという問題もあります。

配送コストが割高になると、運営体制の面だけでなく、関税も相まって販売価格の見栄えに大きく影響してきます。ECフェアなどにおいて物流の展示が非常に多いという事実は、物流がいかに越境ECのボトルネックになっているかをよく表していると言えるでしょう。

「POSの海外展開」にも同様の課題

そして、越境ECのみならず、実店舗の海外展開を考えるときにも、POSのシステム構築について、全く同様の課題が浮上してきます。

いずれにしても、海外展開を実行する前にクリアしておかなければならないことがあまりに多く、そのためのコストと準備期間が想定をはるかに超えてしまう事実に直面し、計画が凍結ないしは頓挫してしまうのです。

それでは、そもそも越境ECは最初から計画すべきでないビジネスなのかと言うと、決してそんなことはありません。

少々ハードルは高いものの、ここまでのチェックポイントをクリアすることは大前提として、十分に成功するチャンスはあると考えます。それには扱う商材や目的によって「やり方」を考える必要があります。

ここからは、いくつかのパターンでそれを検証してみましょう。

目的と商材から考える、
どうしたら越境ECは上手くいくのか?

メイドイン・ジャパンの良さが色濃く出る商材

「日本製」の良さがプラスに働く商材であれば、越境先に競合自体は存在しないため、上手くいく可能性があります。例えば、着物や和傘、焼き物など、伝統工芸品のような商品などはわかりやすく「メイドイン・ジャパン」をアピールできます。

また、伝統工芸品出なくても、日本製であることがプラスに働いて成功を収めている越境ECも存在します。

例えば、株式会社マーケットエンタープライズが運営する、リユース品をECで販売する「ReRe」などは、カメラやフィギュアといった商品における「ユーズドインジャパン」の需要が世界中にあることを証明しています。特にアメリカでの人気が高く、高額な商品でも「一点物」というリユース品ならではの特徴がプラスに働き、成功を収めている越境ECと言えるのではないでしょうか。

また、アフリカをメインの市場として中古車の越境ECを運営するビィフォアードは、扱う商材自体の独自性が高いこともありますが、サイトの見やすさから顧客対応、配送の速さまで、日本にとっては当たり前のことを丁寧に実行する「日本のおもてなし」の良さを徹底したことで、現地顧客の満足度を高め、成功を収めています。

「売上」が目的であれば現地モール型ECへの出店

越境で自社ECを立ち上げることは、ここまで見てきた課題から考えてもわかる通り、決してハードルは低くありません。もし、越境ECをやる目的が、純粋に「ブルーオーシャンな市場を開拓して売上を伸ばすこと」なのであれば、現地のモール型ECとパートナーシップを組んで出店するのがベストな選択と言えます。

もちろん手数料などのランニングコストはかかりますが、現地での商習慣を理解し適応するという点や、ローカルの消費者に確実に刺さる集客施策を打つと言った場面では、ナレッジのない自社で手探りにやるより、はるかに効率的に物事を運ぶことができるでしょう。

MNC NY株式会社が手がけるコスメブランドの「シンプリス」は、中国にブランドを展開する際、現地創業メンバーと手を組んで、日本の商品販売に特化した越境ECサイトを新たに立ち上げましたが、そのような手法も、成功するための一つの形として考えられるのではないでしょうか。

「海外進出」が目的であれば現地法人の設立を目指すべき

単なる売上拡大だけではなく、本格的に海外にも拠点を築いていく第一歩として越境ECを位置づけるのであれば、まず現地法人を設立し、現地法人がECの運営を行う、もしくは現地のプラットフォームと組むというのが正解でしょう。

一見、日本に拠点を置いたままECサイトを運営する方が、現地法人を設立するよりもコストやリソースも抑えられそうな気がしてしまうのですが、ここまで見てきたように、細かい部分を紐解いていくと、それは大きな誤解だということがわかるはずです。

海外で盤石な基盤を整えるのは一朝一夕には行きませんから、確かに準備期間だけで見れば「まずECから」という話になるのは仕方がないことかもしれません。しかし、本気で海外進出を狙うのであれば、「急いては事を仕損ずる」にならないようにすべきでしょう。

例えばベビー服・用品ブランドの「ミキハウス」は、越境ECを立ち上げる以前からフランスやイタリア、アメリカなどに法人を設立し、グローバルなブランドの基盤を築いてきました。もちろん現地法人の設立当時はECサイトが存在しない時代でしたが、そこで形成されたブランド力があったからこそ、中国での越境EC立ち上げの際には、現地で出店が待たれていた、つまり機が熟した状態を作れたのではないでしょうか。